「ペルー大統領選」投票10日経っても勝者不明の訳 ケイコ・フジモリ氏が選挙不正を訴えている

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フジモリ陣営が不正の疑いがあるとしている50万票のうち、仮に2割でも選挙委員会が認めればフジモリ氏の勝利につながることから事態の判断は容易ではない。仮にそうなれば、カスティジョ氏をこれまで支持してきた支援者が暴動を起こす可能性もある。

スペイン紙「OKディアリオ」によると、元コロンビア大統領で、現在スペインに住むアンドレス・パストラーナ氏は、カスティジョ氏を支えている政党、自由のペルーは、中南米で「フォロ・サンパウロ」と呼ばれている左派や極左政党の集まったグループに属していると指摘。その背後には、ベネズエラのマドゥロ大統領とナンバーツーのディオスダド・カベーリョ氏が資金をもって支援しており、中南米における左派政党台頭を推し進めようとしているという。

都市部で人気のカスティジョ氏

スペイン紙「エル・パイス」によると、今回の選挙ではカスティジョ氏は17の県で勝利し、フジモリ氏は8つの県で勝利している。フジモリ氏は勝利した県数は少ないが、リマ県を含め票田の多い3県を制覇して票を稼いでいる。また、75カ国に在住しているペルー人からの票でも62%を、フジモリ氏が獲得している。

今年の5月時点では、決戦投票に臨んだ2人の支持率の差は20%の開きがあった。リマではフジモリ氏が優位にあった一方、地方ではカスティジョ氏の支持率が56%だったのに対し、フジモリ氏はわずか13%だった。しかも、フジモリ氏は仮釈放という身分から地方での選挙活動ができない状態であり、選挙予測に定評のある調査機関もカスティジョ氏の勝利を予想していた。

急進左派政党「ペルーの自由」候補で教師のカスティジョ氏は、教師の待遇を求めた8カ月におよぶストを起こしたことで、その名を全国に知らしめた(写真:Miguel Yovera/Bloomberg)

都市部と地方で支持する候補者が異なる背景には、ペルーにおける貧富の差がある。アラン・ガルシア元大統領はかつて、ペルー経済を発展させれば、おのずとそれが地方の発展にもつながると主張していたが、実際にはそのようにはならず、地方は相変わらず貧困が続いた。一部の地方では60%が貧困者というところもある。こうした中、地方で支持を集めていったのが、社会主義的な理想を掲げるカスティジョ氏である。

カスティジョ氏が生まれたペルー北部チョタは、南米最大級の金鉱山があるにもかかわらず、ペルーで最も貧しい地域とされる。エル・パイス紙によると、過疎地に住んでいたカスティジョ氏は、幼い頃、標高3000メートルのところにある学校に、片道2時間かけて通学していた。同氏は9人の兄弟姉妹の中で唯一学業をして小学校の教師になった。

カスティジョ氏が政治に関心を持ったのは2002年からで、アレハンドゥロ・トレド元大統領が党首を務める政党「可能性あるペルー」に籍を置いていた。2017年に学校教師の待遇改善を求めて労働組合のリーダーになると、8カ月のストライキを敢行。このストによって同氏の名がペルー中で知られるようになった。

その後、自由のペルーに入党。党首のウラディミル・セロン氏はキューバで医学を修め、2010年から2018年にフニン県の県知事を務めた人物だが、2020年に汚職の罪で4年8カ月の刑の判決を受けている。セロン氏はベネズエラ、ボリビア、キューバに親近感を持っており、それはカスティジョ氏にも影響している。

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