日本株の短期下落懸念がなかなか消えない理由 最も重要な米国の景気はどうなっているのか

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まず、政府や中央銀行が「景気過熱を好ましくない」として、景気抑制策を打ち出す展開だ。しかし現在のアメリカにおいては、政府は長期的観点からしっかりと経済を支えようとしている。連銀も、少なくとも今年は緩和を粘り強く続ける姿勢だ。

別の経路としては、金融緩和が現状通り継続されたとしても、債券市場が景気過熱を織り込んで、長期金利が先行して大きく上がり、それが金融機関の貸し出し金利の上昇を通じて経済を抑え込む形が考えられる。しかしこれも、FRB(米連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長が粘り強く緩和を続けるとの発言を繰り返していることが功を奏し、長期金利は落ち着いて推移している。

ただし、4日にジャネット・イエレン財務長官が「アメリカの経済が過熱しないように確実を期するため、金利はほんの少し上昇せざるを得ないかもしれない」と発言したと報じられ、その時ごく一時的にだが株価は下振れした。

この発言の内容自体は「景気が強ければ金利が上がる」という当たり前のことを言っているだけだ。だが、それに対する市場の反応をみると、底流では金利動向に対して投資家が神経質になっていると解釈できる。

最後の経路としては、エネルギーや工業用原材料の価格が先行して大きく上がるというサプライチェーンの上流でのインフレが高進し、それに対して下流のインフレが遅れる場合だ。そうしたインフレの差は、前述のように、企業などがコスト増という形でかぶり、利益を圧迫しかねない。

「短期での株価下振れへの懸念」は消えず

こうしたインフレと半ば関連している懸念としては、半導体の需要が急増しているものの、生産が追いついておらず、半導体不足などで自動車の生産が抑制される、という事態が生じていることだ。

また性質が異なるが、7日にはアメリカ東海岸の石油パイプラインシステムがサイバー攻撃を受け、テキサス州からニューヨークに向けてのガソリンや石油系燃料などの輸送が停止している。備蓄があるため、停止が2、3日で済めば経済への影響はなさそうだ。だが、冬場のテキサス州での寒波や停電による石油製品の生産停止も最近あったばかりで、サプライチェーン全般の混乱が新たなリスクとして注視されるかもしれない。

ただし今まで挙げたような景気過熱の反動リスクが、深刻な景気後退につながるとはまったく考えていない。ちょっとした経済指標の回復のもたつきが生じるくらいだろう。

それでも、アメリカの株式市場が余りにも過熱気味の楽観に振れ過ぎているだけに、投資家の間の景気好調シナリオのわずかな修正が、短期株価下振れ(株価下振れも、何割にもなるようなものは想定しておらず、1割程度か)の引き金になる展開は十分ありうる。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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