「ウマ娘」だけでない、サイバー強烈決算の真因 時価総額は初の1兆円突破、「電通超え」の威力

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これまでの5年間にファンを獲得してきたことは、早期の人気化だけでなく、収益性にも貢献した。新作ゲームのリリース時は、ヒットさせるための広告宣伝費がかさむことが多いが、サイバーエージェントは今回、ファン層の厚さに期待し広告出稿を抑制。ゲーム事業全体の広告宣伝費はむしろ、「第1四半期(2020年10~12月期)よりも減らしている」(サイバーエージェントのIR担当者)。

当初会社側は2021年9月期通期の業績予想を、売上高5000億円、営業利益300億~350億円としていたが、今回発表した第2四半期までの実績で営業利益予想の下限値を超過。そのため通期予想を売上高6000億円、営業利益575億~625億円に上方修正した。第2四半期時点で業績予想を達成したのは上場以来初めてだという。

とはいえ、スマホゲームはヒット作品があるかないかで業績が乱高下する。ウマ娘だけに頼るわけにもいかない。決算説明会に登壇したサイバーエージェントの藤田晋社長は冒頭、「ゲームの好調さが注目されているが、広告も含めて全般的に好調な状態にある」と説明した。

ネット広告も踏ん張っている

主力のネット広告事業は、この1~3月期の売上高が前年同期比10.8%増の806億円、営業利益は同7.5%増の72.3億円となった。昨年は4月以降に新型コロナウイルスの感染拡大の影響を強く受けた業種を中心に、広告主が出稿を手控えたことを受け売上高の伸びがほぼ止まっていた。

この状況を受け、コロナ禍の巣ごもり需要を取り込むネット通販やエンタメ系の広告主への営業を強化してきた。とくにグーグルやヤフーの検索連動型広告を伸ばしており、「現在は完全に回復している。緊急事態宣言の影響も軽微だ」(藤田社長)。ネット広告売上高の伸び率は、競合の電通グループや博報堂DYホールディングスを上回る。

さらに、従来これら2社が囲い込んできた「ナショナルクライアント」と呼ばれる大企業の広告主に関しても、「広告予算の増分を当社が獲得できている」(IR担当者)。

一方、広告やゲームの稼ぎを元手に投資してきた動画配信サービス「ABEMA(アベマ)」は、今後の成長可能性がまだ不透明だ。コロナ禍の追い風で週間アクティブユーザー数は1400万人まで伸びたが、直近では1200万人前後で推移。サイバーエージェント社内からは、「ヒット番組を生み出すのが難しくなってきている」との声も聞かれる。

直近のアベマ関連事業では、こちらも巣ごもり需要を受けて、有料オンラインライブ配信、競輪やオートレースのネット投票サービス「WINTICKET(ウィンチケット)」など周辺事業が大きく売り上げを伸ばしている。ただコロナ後も見据えると、番組のヒットが左右する広告収入や月額課金の会員数がより重要になる。

主力事業が稼げるうちに、アベマをどれだけ強くできるか。これが今後の焦点となりそうだ。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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