北朝鮮「オリンピック不参加」の裏にある悲惨 関係者や脱北者が語る国民が置かれた状況

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国連の報告書には、現在実施されている制裁が、北朝鮮から中国への石炭輸出と、その見返りとして石油や他の物資が流入する流れを断ち切ろうとしつつも、この数週間、公式の貿易統計に表れない実際の取引水準が増加しているありさまが詳細に記述されている。

ハードカレンシーの流れに対する制裁措置の影響は、政権のサーバー作戦本部である偵察総局が行った広範なサイバー犯罪により、いくらか軽減されてきた。

ラザルス・グループ、ビーグルボーイズ、ブルーノルフ・グループなどの北朝鮮人民軍偵察局(RGB)傘下に置かれたハッカー部隊は、仮想通貨取引所やその他の金融機関からの盗難に成功しており、国連の報告書によれば、それらの作戦から得られた収益は2019年~2020年11月の間に少なくとも3億1600万ドル(約345億円)に上るという。

金正恩は今、何を考えているのか

専門家たちは、金正恩が実権を明け渡すのもそう遠くないところに来ているという期待に警告する。

「徐々に強まっているに違いない圧力にもかかわらず、金は解決のカギは自分が握っていると感じている可能性が高いため、必死に交渉しようとはしていない」と、ブラウン氏は語る。金正恩はまだ、自分の地位と政権を維持するために待ちの戦術を取り、中国を頼りにすることができる。

ただし、オリンピックに関しては、金正恩はいつでも考えを変えることができる。

「日本と韓国は北朝鮮のオリンピック参加を望んでいるため、金正恩は自国チームの参加を保留することで、ある程度の力を得ている」と、ブラウン氏は指摘する。北朝鮮人たちはギリギリのタイミングであったとしても、「何か見返りが得られれば考えを変える」可能性がある。変わらないのは、金政権にかかる「これまでで最悪の」脅威に膨らんでいる根本的な問題である。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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