車上生活を描く映画が「日本人の未来」を映す訳 「ノマドランド」の根源的かつ明快なメッセージ

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アメリカのノマドと日本の未来が重なる(写真:Cavan Images/iStock)

経済不況により車上生活者として季節労働に従事しなければならなくなった人々の実態を描いた映画『ノマドランド』(監督・脚本:クロエ・ジャオ)が話題になっている。

さきごろ今年のアメリカ・アカデミー賞の主要6部門にノミネートを果たした。原作は2017年の出版と同時にアメリカで大反響を呼んだ『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(ジェシカ・ブルーダー著、鈴木素子訳、春秋社刊)だ。『下流老人』(藤田孝典著)のアメリカ版として、その日常を捉えたドキュメンタリータッチの作品ともいえ、これはそのままわたしたち日本人の未来にも当てはまる真実を映し出している。

キャンピングカーで各地を転々と放浪

物語は、アメリカ・ネバダ州の石膏ボード製造会社が所有する町・エンパイアが閉鎖されたところから始まる。数少ない伝統的な企業城下町の社宅から立ち退かざるをえなくなった60代の女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、キャンピングカーでノマド(遊牧民)さながら各地を転々と放浪して働くことを余儀なくされる。

季節労働の現場の多くはハードワークでかつ低賃金が相場だ。彼女のような立場の人々は、ワーキャンパー(キャンピングカーで移動しながら働く人のこと。ワークとキャンパーを組み合わせた造語)と呼ばれている。しかしその一方で、ファーンは自分よりも先に路上に出たノマドたちとの交流を通じて、これまでの生活とはまったく異なる別の豊かな現実が広がっていることに気づく。

これをノマド的な自由さという美辞麗句で称える向きもあるが、インフルエンサーとして成功しているようなノマドならいざ知らず、いささか楽天的すぎる見方だろう。確かにそういう側面もあるが実際はもっと複雑である。

彼らは少し前まで中間層を自認する安定した暮らしを享受できていたにもかかわらず、主にグレート・リセッション(2000年代後半から2010年代初めまでの期間の大規模な景気後退)をきっかけに、それらの社会的地位を奪われて着のみ着のまま路上に投げだされた何百万人もの人々なのである。

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