和歌山「赤ちゃんパンダ誕生」5つの異例な事情 コロナ禍でさまざまな困難が立ちはだかった

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これまでにアドベンチャーワールドで無事に生まれ育ったパンダは17頭(このほか生後間もなく死んだパンダも数頭いる)。17頭のうち、16頭の父親が永明、10頭の母親が良浜だ。楓浜は、永明と良浜を父母として生まれ育った10頭目のパンダとなる。

28歳の永明は、人間でいうと80代。飼育下において世界最高齢で子をもうけたパンダで、自身の記録を更新し続けている。永明の子どものうち11頭は、繁殖のため中国へ旅立った。そのうち4頭が中国で繁殖して、20頭以上の子や孫が生まれている(2019年11月時点)。

おやつが入った竹幹と「格闘」する彩浜(写真:筆者撮影)

アドベンチャーワールドの飼育スタッフは、高齢の永明が健康に過ごせるように配慮している。採食量が減らないよう、エサにも気を遣う。主食の竹は、パンダたちの中で最優先に選別して与える。採血や血圧測定は定期的に行い、健康管理に努めている。

永明は今後も繁殖できるのだろうか。なにしろ世界記録の保持者で前例がないため、予想するのは難しい。筆者の私見だが、もしかしたら、楓浜は永明の最後の子どもになるかもしれない。

人々や町に明るさをもたらす

楓浜は、まだおぼつかない足取りながらも、歩いて部屋の隅まで行ったり、小さな岩組みをまたごうとしたりと元気いっぱいだ。じっとしていないので、最近はスタッフがメジャーで体長を測るのが難しいこともある。飼育スタッフの品川友花さんは「おてんばな子に育つのでは」と目を細める。

楓浜の名前には「秋に色づき、美しく変化する楓のように、豊かに成長する姿がたくさんの人から愛され、あたたかく見守られる存在となってほしい」「未来のSmile(幸せ)を育む存在になれるように」との願いが込められている。コロナ禍の暗い世相の中で、いくつかの「異例」を経て誕生した楓浜。すくすく元気に育つ姿が、人やまちに明るさをもたらすだろう。

中川 美帆 パンダジャーナリスト

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なかがわ みほ / Miho Nakagawa

福岡県生まれ、早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(11カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)

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