「コロナ給付金」を株に突っ込む米国人の思惑 米国株の上昇を支えているのは個人投資家だ

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しかしスピードを重視した連邦政府は、支援策の対象を広く設定。経済的に健全な状態を維持できている人々と失業者をほとんど区別しなかった。その結果、アメリカの家計は全体としてまれに見るレベルにまで改善してきている。フィッチ・レーティングスによると、昨年4月から今年1月の間に政府移転支出は賃金・所得の損失額を約8000億ドル上回り、家計貯蓄残高が急激に積み上がった。

「今回の景気後退の異常性はいくら強調してもしきれない」。こう話すのは、証券会社ストーンXのグローバル・マクロストラテジスト、ビンセント・デルアードだ。「今回の景気後退で人々はかなりリッチになった。そんな不況は人類史上初めてだ」。

景気が後退すると普通、人々は現金を抱え込み、不要不急の支出を減らし、回復の兆候が現れるまでじっと耐えるものだ。株価も普通は低迷する。例えば2008年の金融危機時にS&P500は、2009年3月に底打ちするまでにピークから57%近く下落。かつての高値を回復するのに4年かかった。

「クジラ」といっしょに「小魚」が乱舞

今回の危機も始まりは同じだった。昨年の2〜3月、S&P500は投資家のパニック売りから34%近く下落。しかし、3月後半に連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利をゼロ近くまで引き下げ、量的緩和策を再開すると、株式市場は一転、上昇トレンド入りした。

FRBの動きに安心したウォール街の機関投資家は株式市場にすぐさま回帰。そして株式市場には、ウォール街の「クジラ」といっしょに個人投資家という大量の「小魚」がなだれ込んできた。

グーグルではこの3月、「how to buy stock(株の買い方)」というキーワードの検索回数が急上昇。証券会社の口座開設件数も急増した。証券業界では、若い投資家に人気の投資アプリ「ロビンフッド」が先鞭をつけた手数料無料の取引モデルへの移行が進んでおり、こうした事情も現在の株投資ブームにつながった。

ソーシャルメディアも盛り上がりに拍車をかけている。コロナ禍で巣ごもりとなった多くの人々がソーシャルメディア上で株取引のアイデアやヒントをやりとりし、自らのもうけを自慢し合っている。

冒頭のトランペット奏者サンチェスは先日、ツイッターにこう書き込んだ。「スティミーを株に投資してみた。すげぇ。朝から最高の気分だ」 

(=敬称略=)
(執筆:Matt Phillips記者)
(C)2021 The New York Times News Services

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