「デジタル人民元」実用化を急ぐ中国の本気度 新時代の通貨は本当に米ドル覇権を脅かすのか
3つ目はオフラインでも決済可能であることだ。前述のデジタル通貨研究所が開発し特許を取得しているデジタル通貨ICカードによるオフライン決済の技術により、オフラインの状況でもデジタル人民元が使用できるという。
つまり、ネットワーク環境がなければ使うことができない「アリペイ」などより、決済ツールとして一歩前進しているのだ。
中国政府の4つの意図とは
中国政府の狙いについては、考えられることはいくつかある。
まず、「真のキャッシュレス社会」の実現だ。中国ではスマートフォン決済の取引規模が拡大し、市民の日常生活レベルではキャッシュレス社会が実現している。反対に言うと、キャッシュレス化は日常生活の少額取引にとどまっている側面は否めない。真のキャッシュレス社会の実現の切り札となるのが、現金に代替する中央銀行が発行するデジタル通貨だ。
中国人民銀行デジタル通貨研究所前所長の姚前氏は「現金通貨と代替するデジタル人民元の発行に注力している」と明言している。デジタル人民元が現金通貨(M0)にとってかわる存在になれば、決済の利便性はさらに向上し、中国社会のキャッシュレス化はさらなる進展を遂げると考えられる。もちろん、現金の発行や流通、保管コストも大幅に減少する。
次に考えられるのは、デジタル時代の法定通貨のあり方の模索だ。現在進行系で急速に進むデジタル時代には、仮想通貨が出現し、決済サービスは多様化し、フィンテックが進展している。
その結果、現金通貨の発行、流通を基盤とする各国の法定通貨制度は大きな変革を迫られているのだ。各国がデジタル法定通貨の発行を前向きに検討しているのはそのためで、デジタル人民元構想もその1つだと言える。
3つ目は、日本では金融包摂といわれている「普恵金融」の実現だ。金融包摂とは、誰にでもどこにでもあまねく金融サービスを行き届かせることで、換言すると、地方の過疎地に居住する人や貧困層の人であっても、簡単に金融サービスにアクセスできる環境を整えることを言う。
周小川・中国人民銀行前総裁は、農村地域などの遠隔地で「普恵金融」を実現させるためには、デジタル人民元とモバイル端末の活用が最も有効な手段だと主張している。デジタル人民元の発行を契機に、より広い層の人々が伝統的金融機関の金融サービスを適切に利用できるようになると期待してのことだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら