「老ける」ストレスと「若返る」ストレスの差とは 「金銭的なストレス」が最も老けるという研究も
では、「若返るストレス」とはどんなものでしょう?
それは、あなたにとって役に立つ目標に向かってエネルギーを注いでいるときに味わう精神的な不快感のことです。マラソンの完走、ダイエット、長生き、起業など、本人が「これは大事だ」と心から思えるなら、目標の種類はなんでも構いません。このタイプのストレスは、あなたの脳にほどよい刺激を与え、前回紹介した心身の若返りシステムである「ホルミシス」効果を発動させてくれます。
というと、「楽しむだけではダメなのか?」と思う人もいるでしょう。せっかく好きな目標に向かってエネルギーを注ぐのだから、ひたすら楽しみつつゴールに向かいたいと感じる人は少なくないはずです。
しかし、残念ながらこの考え方では根本的に達成できません。人間の脳のシステムは、本気でゴールに向かう者に不快感を与えるようにデザインされているからです。
一流プレイヤーへの調査からわかったこと
心理学者のアンダース・エリクソンは、スポーツや音楽の世界で成果をあげた一流プレイヤーに調査を行い、こう結論づけました。
「物事を上達させるためには快適な場所から出なければならない。いくら得意な曲を演奏しても練習にはならないし、すでに習熟したテクニックでプログラムを書いてもスキルは改善しない。上達のためには最大限の努力が必要であり、それゆえにひどい不愉快さをもたらす」
人類の心と体は、できるだけエネルギーを節約するように進化してきました。いったん生存に必要なスキルが身に付いたら、あとはその状態を維持したほうがカロリーを使わずに済み、それだけ生き延びる確率も上がるからです。新たなスキルの獲得は、周囲の状況が変わったときにあらためて考えればいいことでした。
そのため人間の脳には、新たな目標に向かう際に、必ず苦痛をもたらすようなメカニズムが備わりました。「このままでいたほうがいいよ」と心身にメッセージを送り、現状維持をうながすシステムです。
要するに、真の上達はつねに「苦痛」とワンセット。新たに数学の公式を学ぶとき、未知の演奏テクニックを練習するとき、起業のアイデアを絞り出すときなどに、なんの不快さも感じないようであれば、それは脳が現状維持の方向に向かっているサインと判断できます。
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