震災10年、鉄道は復旧も交通網「再構築」の難題 被災鉄路の復旧プロセスと相互連携の重要性

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「鉄道が復活しなかった」区間には、JR気仙沼線の柳津―気仙沼間と、JR大船渡線の気仙沼―盛間がある。これらは巨額の復旧費用をかけたとしても、鉄道では採算が取れないとして、JR東日本と地元自治体が協議のうえ、線路敷をバス専用道化する「BRT」として運転を再開した。

気仙沼線BRTの南気仙沼駅(筆者撮影)

当初は仮復旧と触れ込んでいたが、地元も鉄道事業廃止を受け入れ、事実上、バス輸送に転換。地域の公共交通機関を確保している。この2路線のBRTは、引き続きJR東日本が運営に当たっている。

こうして見ると、放射線被害を受けて、いわば国家的な復興プロジェクトの一環となっていた常磐線いわき―原ノ町間を除き、復旧方法は採算性と地元の意向次第で決まっている。東日本大震災に限らないが、自然災害は地域における「鉄道のあり方」を再検討する機会となるのだ。九州のくま川鉄道やJR肥薩線などは、今、まさにその問題に直面している。

「鉄道のあり方」問われる契機に

東日本大震災からの復興にあたっても、仙台市の近郊で比較的利用客が多い常磐線新地―浜吉田間や仙石線などは、JR東日本の手で復旧工事が行われた。

線路が移設された山下駅付近を走る常磐線列車(筆者撮影)

しかし、気仙沼線、大船渡線、山田線はいずれも復旧工事費用が安く、運転再開後の経費も割安なBRT化が提案され、JR東日本が今後も運営に責任を持つことを条件に受け入れたのが前2者。提案を受け入れず交渉が長期化して、最終的に鉄道復旧、地元自治体主導の経営への移管となったのが山田線との構図がある。しかし、引き受けた三陸鉄道においても経営再建の途上で被災しており、先行きは明るくない。

震災ともなると町全体が崩壊し、あらゆる面から復興を模索しなければならない。その中で、地元自治体が、どれだけの人的リソースや財源を公共交通機関に割けるかと問われれば、心許ない部分がある。経営状況が苦しいということは、それだけ地域住民の間での地位が低下しているということ。町の移転やかさ上げとからめてとなると、時間がかかるのはやむをえない。ベストの選択をしたとは言えない面もあるが、むしろ10年で公共交通機関網をよく再建できたと思う。

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