「自分は平凡」と思う人に伝えたい思考の変え方 日本が誇る「発明家」はこうやって考えている

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しかし、何しろモヤモヤしていることなので、いざ書こうとすると「これもあるし、あれもある」「ああでもないし、こうでもない」とダラダラした長いクレームになりやすい。これも、頭の中でモヤモヤしている状態と同じだ。そういうふうにしかクレームを書けないのは、自分でも何がしたいのかよくわかっていない証拠でもある。

「やりたいこと=クレーム」は1行で言い切る

だから、クレームは1行で書き切るのがベストだ。頭の中ではモヤモヤと無限に広がってしまいそうなアイデアを、できるだけ短い言葉に落とし込む。グループで議論しているときでも「この議論の中で、クレームとして切り出せるものはなんだろう」と考える。それが「言語化は思考するためのツール」ということだ。

これは、多くの仕事に共通することだろう。黒澤明監督も、映画の企画を1行で説明することを心がけていたそうだ。

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「百姓が侍を7人雇い、襲ってくる山賊と戦い勝利する」

これは『七人の侍』を説明するクレームだ。

黒澤監督の名作の数々は、そういう短く具体的なクレームから始まった。それを言い切れた時点で、本人の頭の中では作品ができ上がったも同然だったかもしれない。

同じモヤモヤに対して複数のクレームを作ってみて、比較するのもいい。もし、その時点でどうにもモノにならないと思ったら、切り替えて別のことを考えてもいい。

そういうジャッジができるのが、言語化のメリットのひとつだ。モノにならないアイデアをいつまでもモヤモヤのまま抱えていても仕方がない。別のことを考えているうちに、そのアイデアが活きるクレームを思いつくこともある。

さらに、1行にまとめたクレームは人の感想を聞きやすい。妄想は自分の「面白い」から生まれるとはいえ、やはり他人の反応を知ることは大事だ。独りよがりでない面白さがあるかどうかは、人の反応を見ることでも見当がつく。

たとえうまく伝わらずにネガティブな反応を受けたとしても、それだけで大きな意味がある。クレームは試験の答案ではないから、一発で「正解」を出す必要はない。むしろ、他人からのフィードバックを受けてさらに中身をブラッシュアップするのが目的だと考えたほうがいいだろう。

暦本 純一 東京大学大学院情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長

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れきもと じゅんいち / Junichi Rekimoto

博士(理学)。ヒューマンコンピュータインタラクション、特に実世界指向インタフェース、拡張現実感、テクノロジーによる人間の拡張に興味を持つ。世界初のモバイルARシステムNaviCamや世界初のマーカー型ARシステムCyberCode、マルチタッチシステムSmartSkinの発明者。人間の能力がネットワークを介し結合し拡張していくIoA(Internet of Abilities)を提唱。1986年東京工業大学理学部情報科学科修士課程修了。 日本電気、アルバータ大学を経て、94年よりソニーコンピュータサイエンス研究所勤務。2007年東京大学大学院情報学環教授。放送大学・多摩美術大学客員教授。電通ISIDスポーツ&ライフテクノロジーラボシニアリサーチフェロー。

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