「サンドラの小さな家」に見る女性の境遇の今 アイルランド・ダブリンの住宅事情も物語る

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物語の主人公は、虐待をしてきた夫ガリー(イアン・ロイド・アンダーソン)の元から逃げ出し、2人の幼い娘たちと3人で仮住まいの生活をしていたシングルマザーのサンドラ(クレア・ダン)。住む場所がなかなか見つからず、肉体的にも精神的にもギリギリの日々を過ごしていた彼女はある日、娘の寝る前のベッドサイドストーリーからヒントを得て、自分の家を自分で建てようというアイデアを思いつく。

土地、資金、人材――足りないものだらけで途方に暮れていたサンドラだったが、土地と資金の提供を申し出てくれた雇い主のペギー(ハリエット・ウォルター)、偶然出会った建設業者のエイド(コンリース・ヒル)、仕事仲間のエイミー(エリカ・ロー)やその友人たちなど、少しずつ仲間を増やし、一軒の小さな家を造ろうと奮闘する――。

この物語の企画の発端は、ニューヨークにいたダンのもとに、アイルランドに住む親友から「ホームレス状態になってしまった」と電話を受けたことから始まった。家主から1カ月後に退去するよう求められたその友人は、引っ越し先を見つけられずに、ホームレスになるのではないかという不安にさいなまれた。3人の子どもたちを育てるシングルマザーである彼女は、実家に身を寄せ、10カ月にわたってひとつの部屋に親子で身を潜めるように暮らしていたという。

ダブリンの住宅事情も反映

その話に衝撃を受けたダンは「3人の子どもがいる女性が家を見つけられずにいるなんて。こんな状況は絶対に間違っている。社会のシステムが崩壊している」と深い怒りといらだちを抱いたという。

本作の背景には、慢性的な住宅不足と家賃高騰に陥っているダブリンの住宅事情も関係している。住宅の需要と供給のバランスが崩れてしまっており、地元民の中には、定職についている人でさえ、ホームレス状態に陥る人も多いというが、政府もこれといった対策を打ち出せずにいるようだ。

そんなこともあり、親友の言葉が数日間、頭から離れなかったというダンは、「ひとりの女性が社会のシステムから抜け出して、家を建てることになったらどうなるのだろう」というアイデアを思いつく。そこで「セルフビルド アイルランド」とネット検索を行うと、アイルランドの建築家ドミニク・スティーブンスが、DIYでリーズナブルに家を建築したという事例が見つかった。

そこからインスピレーションを得た彼女は、共同脚本家のマルコム・キャンベルとともに本作の脚本の執筆を開始。だが、主人公の厳しい状況はダン自身をうちのめし、時には脚本の執筆中に感情的になり、涙を流してしまうほどにのめり込んだという。

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