有名出版社を辞め浪曲師になった彼女の生き様 素人から浪曲界の顔に「玉川奈々福」人生劇場

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――その中で2014年に筑摩書房を退社されて、浪曲一本になられますね。

収入面を考えるとまだ辞められない、まだだ、というのを繰り返しているうちにもう体が追いつかなくなったんです。ようやく踏み切れたのが2014年ということでした。

――専業になられて、やはり芸人としてのご自分は変わられましたか。

そこで大きく変わったということではなくて、徐々にです。いつの間にか声が前よりも出るようになったな、と思えてきた。でも、会社を辞めてから気がついたんですが、頭を使っていると重心が本当に下りないんですよ。体が引き裂かれるというか、昼間は会社で夜浪曲なんていう日は、本当に苦しい。その苦しさがずっとあったんですけど、昼間の仕事が原因だとは気づいてなかった。

浪曲一本になって、あ、ここまで重心が下りるんだな、と初めてわかりましたね。1ヵ月ほぼ毎日声を出すみたいな経験をしていると、体が浪曲になっていく感じがする。そういう日々を送りながら、徐々にです。体と相談しながら、もしもこの先がありうるなら、と祈るような気持ちで毎日を続けています。

コロナ禍で、考えたこと

――そんな中で昨年からのコロナ禍でした。YouTubeに奈々福チャンネルを開設されて、在宅や地方の方にも浪曲を届けようとされるなど、その間にも動いておられた奈々福さんですが、どういうことをお考えになられていたのでしょうか。

YouTubeもプランありきではなかったんですけど、浪曲というジャンルにはアーカイブがあまり存在しないのでその役割を、ということと、若手に活動の場を作れたら、という2つを今は考えるようになっています。やっぱり私は、走りながらじゃないと考えられないタイプなんですね。やってみたら、国際交流基金のブダペスト日本文化センターから、日本伝統文化の教材としてハンガリー語字幕で公開するから制作費を出す、とおっしゃっていただいたり。そういうお声をいただいて、動いてよかったなと思っています。

コロナに負けず、浪曲の火を灯し続ける玉川奈々福さん(写真:梅谷秀司)

――コロナの収束まではまだ時間がかかりそうですが、2021年はどのようなご予定でしょうか。

私には相三味線の沢村豊子師匠という守らなければならない存在もありますし、今やりたいと考えていることは来年なんとか実現できればいいかと考えています。

それは世間に対して、浪曲にはこうした見方があるんですよ、ということを訴えかけられるものになる、といいなと思っていて。だから今年は、おとなしく充電に努めます。

杉江 松恋 ライター

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すぎえ まつこい / Matsukoi Sugie

1968(昭和43)年東京生れ。文芸評論家、書評家、作家。慶應義塾大学文学部卒。推理小説の書評や映像作品のノベライズ小説執筆などで活躍するかたわら、自ら落語会を主催するほどの演芸ファン。著書に『読み出したら止まらない! 海外ミステリーマストリード100』、『桃月庵白酒と落語十三夜』(聞き手)、『ある日うっかりPTA』など多数。

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