原発事故訴訟で追い詰められる国と東電 のらりくらりの答弁に裁判長も不快感

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06年5月の溢水勉強会では、「O.P.+10メートルの津波が到来した場合、非常用海水ポンプが機能喪失し、炉心損傷に至る危険性があること」が報告されたと国会事故調報告書は言及している。また、東日本大震災時とほぼ同レベルの「O.P.+14メートルの津波が到来した場合、建屋への浸水で電源設備が機能を失い、非常用ディーゼル発電機、外部交流電源、直流電源すべてが使えなくなって全電源喪失に至る危険性があることが示された。それらの情報が、この時点で東電と保安院で共有された」とも国会事故調報告書は述べている。

しかしながら東電は、今回の訴訟での準備書面の中で、溢水勉強会での記述内容については「一定の溢水が生じたと仮定して溢水の経路や安全機器の影響の度合い等を検証したもの」であり、「仮定的検証」に過ぎないと反論している。つまり、東日本大震災級の津波が来た場合のシミュレーションをしていながら、あくまでも実際に来た津波は「想定外」だという主張にほかならない。

果たしてこのような強弁は通じるのだろうか。

原告側弁護団の馬奈木厳太郎弁護士は、「国や東電は02年、遅くとも06年までには津波による重大事故を予見できていたうえに、事故を回避するための必要な努力も怠っていた」と厳しく批判する。

これに対して東電側は、唯一依拠する土木学会の「津波評価技術」に基づいて必要な対策を講じていたと反論している。その対策とは、6号機の非常用海水ポンプ電動機を20センチメートルかさ上げし、建屋貫通部の浸水防止対策と手順書の整備を実施したという程度にすぎない。

政府事故調も東電の見解を疑問視

「政府事故調」(東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会)による最終報告書(12年7月)も、「重要な論点の総括」として、次のように述べている。

「(東電が依拠する土木学会による)この津波評価技術はおおむね信頼性があると判断される痕跡高記録が残されている津波を評価を基礎としており、文献・資料の不十分な津波については検証対象から外される可能性が高いという限界があったこと」

「東京電力は、津波についてのAM(アクシデントマネジメント)策を検討・準備していなかったこと。また、津波に限らず、自然災害については設計の範囲内で対応できると考えており、設計上の想定を超える自然災害により炉心が重大な損傷を受ける事態についての対策はきわめて不十分であったこと」

「全電源喪失について、東京電力は、複数号機が同時に損壊故障する事態を想定しておらず、非常用電源についても、非常用DG(ディーゼル発電機)や電源盤の設置場所を多重化・多様化してその独立性を確保するなどの措置は講じておらず、直流電源を喪失する事態への備えもなされていなかったこと。また、このような場合を想定した手順書の整備や社員教育もなされておらず、このような事態に対処するために必要な資機材の備蓄もなされていなかったこと」

これでは原子力発電事業者として失格と言わざるを得ない。

「生業訴訟」の次回の口頭弁論は7月15日に予定されている。ここで国と東電は問題の資料が存在しない理由についての説明を迫られるとともに、シビアアクシデント(過酷事故)対策が十分だったかについても厳しい追及を受けることが必至だ。もはや両者とも「想定外」と言い続けるだけでは済まなくなってきている。 

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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