日本のアパレルがここまで窮している根本要因 破滅の瀬戸際から脱する鍵はオンライン連携だ

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加えて、長年の過剰供給で積み上がった売れ残り在庫や消費者のタンスから放出される中古衣料が激安で売られるのだから、割高な新作品の「正価」はますます通らなくなる。『流通在庫10年分、タンス在庫100年分』と揶揄されて新作品市場がピークの8分の1に激減したキモノ業界の二の舞となることさえ危惧される状況なのだ。

過半が売れ残っても即、廃棄されるわけではない。売れ残り品と言えども、アパレル事業者にとっては現金と同じ商品だから、なるべく高く換金しようとするのは当然だ。

新型コロナ禍の過剰在庫は一部で叩き売り状態になったが、翌シーズンに持ち越せば「正価」で売れる可能性があるから、例年は小売店やアパレルメーカー、受託生産業者や商社が分担して翌シーズンに持ち越している。トレンドやデザインが過剰な商品は持ち越しても販売が難しいから、シーズン中に値引きして売り切るが、定番的商品は持ち越せば確実に売れるからシーズン中の処分を急がず、翌シーズンに持ち越すことが多い。新型コロナ禍の売れ残り在庫も、ユナイテッドアローズやTSIは大半をシーズン中に処分したが、ユニクロや無印良品は多くを持ち越した。

翌シーズンも売れ残ったらさらに持ち越す場合もあるが、アパレル製品の一般的賞味期限は3年程度だから多くは処分業者(いわゆるバッタ屋)に放出され、ディスカウントショップや催事業者に転売されて叩き売られることになる。それでも売れ残って再販価値が潰えた商品がようやく廃棄されるのであり、年間100万トンと言われる衣類廃棄(下着や靴下まで含まれる)のうち大半は消費者のタンスから出たもので、売れ残り新古品が占める割合はせいぜい2%程度と推察される。

流通コストが肥大し、原価率50%超えも

アパレル製品の「正価」は駅ビルやSC(ショッピングセンター)で売られるものは調達原価の3倍ほど、百貨店で売られるものは同5倍ほどでお値打ち感が薄いが、1980年代初期までは前者で2倍、後者で2.5倍程度と格段のお値打ち感があった。百貨店の販売手数料や商業施設の家賃負担が肥大し、値引きや売れ残りのロスが嵩んで、割高な価格を付けざるを得なくなっていったのだ。

その具体的な過程は割愛するが、今日の百貨店ブランドは販売手数料と販売人件費が売上の過半を占め、駅ビルやSCのブランドも不動産費(賃料と投資償却など)と販売費(人件費、光熱費やキャッシュレス手数料など)が売上の4割を占める。

前者の原価率は20%弱、後者の原価率は30%強(31〜33%)だが、値引きや売れ残りのロスが大きいと利益はほとんど残らない。値引きと売れ残りのロスの問題は後で触れるとして、前者で売上の50%強、後者で40%にも達する流通コストがアパレル製品の「正価」を割高なものにしてお値打ち感を損なったことは間違いない。

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