大井川「合格駅」、JRが見習うべき地域連携の姿 地元住民の熱い運動に、鉄道会社が応えた

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大井川下流域に合格駅は位置するが、その最上流部にリニア南アルプストンネルが設置される。「リニア静岡問題」のテーマは、JR東海のトンネル掘削による大井川の水環境や自然環境のダメージをどれだけ少なくできるかだ。環境アセスをどのように実現するかの合意を目指すが、相互の溝はなかなか埋まらない。これだけこじれてしまった原因のひとつが、JR東海に大井川流域の人たちの理解を得ようとする姿勢が欠けていたことだ。

きかんしゃトーマスに生命を吹き込む若い作業員たち(写真:塩津治久)

国土交通省は、JR東海に日常的に地域とのつながりを築く取り組みを促すために、昨年12月9日、成田空港の建設で培った地域連携の方策を学ぶための勉強会を開いた。宇野護副社長らJR東海幹部らが、成田国際空港の設置した「地域共生・共栄会議」の取り組みに耳を傾けた。この勉強会を企画した水嶋智官房長(当時鉄道局長)は「成田闘争ばかりがクローズアップされるが、実際は地域としっかり信頼関係を築くためにお祭り、イベントなど日常的なつきあいを行ってきた。信頼関係の構築こそJR東海が率先して行う取り組み」などと強調。宇野副社長は「今後の地域との連携、事業の推進に生かしたい」などのコメントを発表したが、国の有識者会議への対応を優先して、地域の信頼関係を築くのはいまだにおろそかになっている。

実際には、成田の「地域共生・共栄会議」と同様にJRに信頼関係を築くためのセクションを設けるべきなのだろう。

JR東海は地域住民と信頼関係を築くべきだ

JR東海は沿線駅を出発点に「さわやかウォーキング」イベントを開催している。まずは大井川鉄道と共催で、ご利益たっぷりの合格駅を起点の「さわやかウォーキング」を企画してはどうだろう。旧海軍牛尾実験所跡地、小笠用水(水路橋)やカドデオオイガワなどを巡るコースに、JR東海の金子慎社長が地域の首長らを招いて、大井川河原を一緒に歩いてみる。リニアはまさに「超電導磁気浮上式」の新しい乗り物だから、湯川、朝永両氏らの研究が原点だったかもしれない。そんな由来をJR東海が説明すれば、流域住民はリニアの必要性を理解できるはずだ。

地域住民の後押しで合格駅が誕生した経緯を見ていると、合格地蔵尊は地域の守り神といった風情がある。金子社長は合格駅を訪れ、しっかりと手を合わせたほうがいい。そんなイベントを皮切りに、流域の首長らから地域振興を図る方策に耳を傾けることで、リニア静岡問題の解決が導かれるのだろう。「リニア静岡問題」解決にJR東海に求められているのは、大井川流域の住民たちとの信頼関係だ。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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