トヨタ、コロナ禍での「販売急回復」にみた底力 牽引する米中市場、次世代技術への投資も継続

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そのアメリカでトヨタの販売回復は業界平均を大きく上回る。9月には前年同月比16%増にまで回復し、10月も同9%増と好調を維持。特にSUV(スポーツ用多目的車)が売れ筋で、昨年刷新した「RAV4」と「ハイランダー」が好調だ。レクサスのSUVも売れている。また、ライトピックアップトラックの「タコマ」は足元の販売が前年の2割を超えるほど人気だ。

北米の工場は3月下旬から約50日間、コロナ禍で稼働を停止。再開後もしばらくは操業度を抑えたのに対し、需要の戻りは想定より強かった。「ライトピックアップやSUVを中心に在庫がまだまだ足りておらず、今は一生懸命、在庫を積み増している状況」(財務担当の近健太執行役員)という。

新車の需給が逼迫したことで、北米ではディーラーに値引き原資として支給する販売奨励金を例年よりも大幅に抑制でき、7~9月期の北米での営業利益は1686億円と前年同期に比べ6割も増えた(同期間の現地販売台数は8%減)。トヨタは世界販売台数の約3割を北米が占めており、そこでの収益改善は全体の業績を底上げする。

次世代技術への投資を継続

世界に先んじてコロナ禍から抜け出した中国での販売はアメリカ以上に好調だ。トヨタの4~9月の現地販売は99万台と前年同期比で19%増え、10月は前年実績を33%も上回った。トヨタ車は現地資本のブランドよりも1.5~2倍ほど値段が高いが、品質やリセールバリューの高さに魅力を感じてトヨタを選ぶ消費者も増えている。

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アメリカや中国での販売回復で、トヨタ以外の日系自動車メーカーにも業績回復の動きが広がっている。中間決算発表に合わせて、ホンダが通期の純利益見通しを従来予想の1650億円から3900億円に、SUBARUも600億円から800億円に増額した。それでも回復度合いや販売の力強さでトヨタは群を抜いている。

豊田社長は「利益を出せない会社は未来への投資ができない」と話す。世界では環境規制の厳格化が進み、脱エンジン車の流れも加速する。コロナ禍でも自動運転や電動化など次世代技術への投資の重要性は変わらず、トヨタも前期並みの研究開発費を維持する。未曾有の経済危機下で底力を見せたが、その真の実力はコロナ後に試される。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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