王子様か青い鳥か? 運命の人論の落とし穴 “恋愛を重視するタイプ” そこにつきまとう問題とは

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あなたでも運命の出会いを得られる! という救済

白河も当然そのことには気づいている。そんなハードルの高い婚活を社会全体に訴えるわけにはいかない。だから彼女が主張するのは、結婚相手に求める条件をとにかく下げることだ。「王子様」が欲しいなら海外まで探しに行け、そうでないならハードルを下げて日本で婚活しよう。そういうことなのだと思う。

とはいえ、ハードルを下げろと言われて従うなんてのは、自分の格を下げるようでイヤなもの。だから白河は、そんな人たちを説得するためにアメとムチの二正面作戦をとっている。

ムチは、ハードルを高く設定しているとなかなか結婚できないという社会の現実を伝えること。アメは恋愛による救済である。

どういうことかというと、白河は恋愛というレベルを設定することで、経済的・社会的な意味では「王子様」とは呼べない人でも、恋愛においては運命の人かもしれないと主張するのだ。

もちろん、当初想像していた「王子様」とは違うから、それを運命の人と信じ込むために、ほれっぽいことが望ましいけれど、でもあなたでも運命の出会いを得られる! それは大きな救済ではないか。こうして得られる運命の人を白河は「青い鳥」と呼んでいる。

でも、立ち止まって考えてみよう。人ってそんなにほれっぽいものだろうか? もし、初めからそんなに簡単に恋愛して、運命の人だと思い込めるなら、そもそも結婚に困ったりしないのでは?

白河は積極性を主張して、それはそのとおりだと思うけれど、相手の像については結局、「王子様」から「青い鳥」へと看板を掛け替えただけなんじゃないか?

この問題は何も白河だけの特徴ではなくて、恋愛を重視するタイプの婚活論につねに付きまとう陥穽だ。「ときめきも共有した上での結婚」は確かに魅力的だけれど、こんな時代には恋愛と結婚との間に鋭い緊張が走っており、婚活のうえでは「割りきった結婚」も受け入れざるをえない。そんな現実を冷徹に見つめることも必要なのかもしれない。 


「週刊東洋経済」5/17号:誤解だらけの介護職

榛原 赤人
はいばら あかひと / Akahito Haibara

1988年生まれ。都内某大学院の社会科学分野博士課程に在籍。17歳の頃から結婚をめぐるもろもろに関心を持ち、婚活ブーム以降は、その思想的背景に注目して、机上での結婚探求を行っている。
 

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