ダボス会議で最高のスピーカーは誰か 田坂広志 多摩大学大学院教授に聞く(1)
あのスピーチは、2010年のダボス会議のプレナリー・セッションでの基調講演だったと思いますが、この年のダボス会議は、2008年のリーマン・ショックによって引き起こされた世界経済危機の中でのダボス会議でした。
場を呑むか、呑まれるか

従って、基調講演とパネル討論においては、多くの登壇者が、この金融危機や経済危機について話題にしたので、当然、サルコジも、その基調講演の中で、この経済危機について語ったのです。
しかし、サルコジは、他の登壇者と異なり、何と、大胆にこう語ったのです。
「世界の金融業は、貪欲だ!」
「現在の資本主義は、変革されなければならない!」
この二つのメッセージは、一般の人々が聴いたならば「その通り!」と思うようなメッセージなのですが、しかし、このダボス会議の聴衆の反応は、全く違いました。
なぜなら、会場にいる聴衆、すなわち、世界のトップリーダーの多くが、金融業にも関わり、現在の資本主義の在り方にも責任を負っている人々だからです。
当然のことながら、会場は、このサルコジの発言に対して、少し冷めた雰囲気、冷ややかな空気が支配しました。そのため、拍手も、まばらだったのです。
すると、サルコジは、それを見て、何と言ったか?
「おや、拍手が少ないですな!」
彼は、拍手の少なさにたじろぎもせず、逆に、堂々と、そう言ったのです。
すると、この言葉に気圧されるように、会場からは、拍手が沸き起こりました。
――なるほど、実に面白い場面ですね?
ええ、では、彼は、この瞬間に、何を行ったのか?
胆力で、場を呑んでかかる。
そのことを行ったのですね。
ご承知のように、このダボス会議のプレナリー・セッションでの基調講演は、世界のトップリーダー2500名が聴くので、実は、国家リーダーといえども、相当なプレッシャーがかかる場なのです。
だから、この場を端的に形容すれば、「場に呑まれるか」「場を呑むか」の勝負の場とも言えるのです。
しかし、サルコジは、この場面で、堂々と「場を呑んだ」のです。場の雰囲気に呑まれず、「場を呑んでかかった」のです。
――「場を呑む」ですか・・・
そうです。それは、実は、トップリーダーのレベルの話術においては、極めて重要な力量なのです。
なぜなら、どれほど立派な内容のスピーチ原稿を準備しても、「場に呑まれた」状態で語ったならば、そのメッセージには、迫力も説得力も生まれないからです。そして、メッセージの内容以前に、場に呑まれてしまったスピーカーの「心の受け身の状態」が聴衆に伝わってしまい、スピーカーの「心の弱さ」が伝わってしまうからです。