日本経済の船底に穴、忍び寄る経常赤字の影 悪化が続く経常収支。どんな弊害があるのか
貿易や投資で海外とやり取りした“国の決算”といえる経常収支の黒字縮小が止まらない。5月12日に財務省が発表した2013年度の経常黒字は7899億円、比較できる1985年度以降で過去最小となった。
原因は貿易赤字の拡大だ。輸出が伸び悩む一方、火力燃料の液化天然ガス(LNG)などの輸入が増え、貿易赤字は約11兆円と、前年度比で倍に膨らんだ。それを海外からの配当金など所得収支で埋め、黒字を維持した格好だ。
では、今後はどうか。「13年度後半は増税前の駆け込み消費で輸入が増加している。その特殊要因が消え、14年度以降は緩やかに経常黒字が拡大する」(みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミスト)という見方が多い。
13年度の下期だけを取れば経常赤字で、これは国内需要を国内の供給力だけで賄えなかったことを意味する。金融緩和による株高や財政出動で需要を喚起したアベノミクスが、経常黒字の縮小を加速させた側面もある。
一方、経常黒字の縮小は構造的な問題で、予想以上に早く経常赤字に転落すると危惧する意見も多い。
たとえば、円安で現地価格を引き下げ、輸出数量が伸びることで貿易赤字が解消されるJカーブ効果。数量増の発現には一定の時間がかかるため「Jカーブ」と呼ばれるが、SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「すでに00年代の円安局面の時もJカーブ効果は見られなかった」と語る。実際、現地通貨ベースの輸出物価は、00年代以降ほぼ横ばい。背景には日本企業の販売する製品が高付加価値型にシフトしたことなどが考えられる。輸出数量の伸び悩みは海外生産拡大の影響もある。日本企業がグローバル展開を進めたことで、現在は単純に円安効果を享受できる構造ではなくなった。
双子の赤字リスク
貿易赤字の要因であるLNGを見ると、13年度の輸入量は12年度比で1%しか増えておらず、円安による輸入価格上昇の影響が大きい。また、エネルギー以外でも国内消費は輸入品の依存度が高まっており、内需が回復すれば輸入が増えやすい構造にある。
日本総合研究所の山田久チーフエコノミストは「現在の産業構造を前提とすれば、早ければ数年以内に経常収支が構造的な赤字局面に入る可能性がある」と指摘する。
米国やカナダなど先進国でも経常赤字の国はある。しかし日本の場合、先進国の中で最悪の財政赤字だ。そうした中で経常赤字に陥り、海外からの資金調達が必要となった場合、財政リスクを懸念されて、国債消化が円滑に進まなくなる可能性もある。
いわゆる、財政赤字と経常赤字という双子の赤字のリスク。第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは、「船の底に二つの穴がある状態」と表現する。「これまでは一つの大きな穴(財政赤字)ばかり気にしていたが、思いのほか早く、もう一つの穴(経常赤字)が開き始めた」。
今後、財政健全化はもとより、国内投資や研究開発投資の拡大など、供給側を充実させ、潜在成長力を高める具体策が不可欠になる。
(週刊東洋経済2014年5月24日号〈5月19日発売〉核心リポート02)
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