空虚に響く「紙の部数は横ばい」の計画 日経新聞が電子版をお披露目
新聞業界にとっては、待ちに待った注目の発表会だった。2月24日、日本経済新聞社が「電子版」の概要をお披露目した。会場となった日経本社の6階ホールには、多くの新聞社、テレビ局、ネットメディアの記者が詰めかけた。
この場で初めて、3月23日の創刊(課金開始は5月1日から)が明らかになった。価格体系(新聞購読者は紙の新聞代+1000円、非購読者は月額4000円)や記事サービスの中身などは、週刊東洋経済2月20日号特集で報道したとおりだった。
会見で目立ったのが、経営陣の「紙の新聞部数維持」への自信。「紙の新聞の部数に影響を与えないように4000円という値付けを決めた」「少子高齢化もあり現状から大きく伸びることは考えにくいが当面、310万部の線は変わらない」と、“紙は減らない”を強調。社内で定められた2010年12月期の予算計画でも「販売収入微増」の想定だ。
しかし、部数が減らないという根拠は薄弱だろう。何しろ朝夕刊の新聞の記事はすべて電子版に含まれている。つまり、「紙の日経新聞」でしか読めない記事は一本もない。
紙の魅力を高めるために投資はするのか、紙の新聞でしか読めない特別記事などを掲載する計画はあるかという点について喜多恒雄社長は、「紙には紙の良さがある。一覧性のすばらしさ、縦書きで読みたいというニーズは根強くある」と答えるにとどまった。
つまり、「紙の手触り感」以外には付加価値がないのに、「電子版+朝夕刊」は、「電子版」より1383円も割高という見方ができる。この価格差は決して小さくない。
特に、読者が集中する首都圏の日経読者は他の全国紙と併読しているケースが多く、紙の日経の購読は止めるのが自然な流れだろう。「もちろん一部の併読者は紙の購読を止めるだろう。が、たいした部数減にならない」と担当者は言うが、希望的観測のように聞こえる。
本当に紙の新聞を大事にするつもりなら、「紙の購読者には電子版が無料で付いてくる」「紙でしか読めない記事をたくさん載せる」といった戦略が必要ではないか。そのほうが部数増にもつながり、よほど筋が通っているのだが。
(山田俊浩 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2010年3月6日号)
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