川勝知事が追及しない「日本学術会議」選考の謎 静岡県にとってはリニア同様見過ごせない

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日本学術会議事務局は「推薦されたかどうかを含めて本人は知らないし、選考の過程や内容については答えられない」などとして、選考過程の公開に前向きではない。前述のとおり、現会員が推薦した候補のみが選考される仕組みであり、客観的に「優れた研究又は業績」に基づいて選ばれているわけではない。つまり、「優れた研究又は業績がある科学者」は建前にすぎず、学者同士の交際範囲や上、下関係など内輪の論理で推薦者を決めている可能性が高い。

10月から会員に就いた浜松医科大学医療情報部の木村通男教授は、「誰が誰を推薦したのか仕組みも含めて選考過程はまったくわからない。今回任命拒否された6人は人文・社会科学分野だが、天野教授のような自然科学分野と違い、業績の評価は難しい。誰が推薦して、会員にふさわしいと選んだのかまったく見えない」と話す。

そして任命拒否によって「学問の自由」が侵されているという見方については、「政府の組織なのだから、首相の任命拒否は問題ない。学問の自由を保障されている大学の自治が侵されているならば学術会議で議論すべきだが、学術会議は学問をする場ではないのだから、学問の自由とはまったく関係ない」と指摘する。

同会議事務局も「日本学術会議が菅首相に学問の自由を認めるように求めているわけではない。あくまで任命拒否した理由と拒否を撤回するよう要望している。会議に学問の自由を保障するような要項等はない」と説明する。

知事の役割は何か

会員名簿には、天野教授だけでなく、今年4月、数学の超難問「ABC予想」の解明を発表、世紀の大偉業と騒がれた望月新一京大教授も見当たらない。つまり、日本学術会議は日本を代表する科学者の機関にふさわしい人選が行われているのかどうか疑わしいのだ。もちろん、「政府組織」の一員となれば、時間を束縛されるため、望月教授のほうから「学問の自由」が侵されるとして、同会議に参加するのを断ったのかもしれない。だとしたら、安保法制や共謀罪など現政府に反対を表明する学者たちが、時間が束縛されて「学問の自由」が侵されるにもかかわらず、「政府組織」の一員に加わりたいと求めるのは自己矛盾に陥る。

川勝知事は、10月16日の記者会見で「私は権限や能力を持った人が間違っているならはっきりと言う。そのスタンスは変わらない」と述べたが、その言葉をそのまま川勝知事にお返ししたい。リニア静岡問題で絶対の権限を有するのは知事であることを忘れているようだ。静岡県知事の役割は県民をあおりたてることではなく、県民のためにリニア問題を早期に解決することである。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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