ヒット曲「香水」と「天城越え」意外すぎる共通点 曲調やジャンルが異なっても「似ている」理由

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これらの組み合わせも、ジャンルや曲調、ボーカルの性別、言語も異なるなど、人力で共通点を見出すことは難しい。ヒット曲を研究し続けているビルボード事業部長の磯崎誠二氏も「これらが同じジャンルだと提示しても、ユーザーは納得しにくいだろうなと。説明も難しいと思った」と印象を語る。

確かに、脳の反応パターンのため、「この点が似ている」などと言語化することはできないが、従来の人間の主観的な評価とは根本から異なる、新しい評価軸とも言える。「言葉で説明できないことは弱点だが、魅力でもある」(茨木氏)ようだ。

現在、普及が進む音楽ストリーミングの各サービスは、ユーザーの履歴データやAIを駆使して、より好みと思われる楽曲をレコメンドしている。だが、脳情報を活用することができれば、今まで聴いてこなかったようなタイプの音楽から、お気に入りの楽曲を見つけることも期待できそうだ。

4カ月先までチャート上位の曲を予測

もう一つの研究の成果が、ヒット曲のトレンド予測だ。

研究では、脳情報や歌詞、コード進行、アーティストの前週のチャートデータを基に、毎週どのような特徴を持った曲がチャート上位にランクインするかを定量的に示すモデルを構築した。このモデルが過去、どのように変化したかを学習することで、どんな特徴を持つ曲が未来のチャートの上位にランクインするか予測している。

現在、4カ月ほど先までは高い精度で予測できるという。この予測を基に、たとえばテレビCMのタイアップ曲を複数の候補から絞り込む場合、どの曲が最も放映時のトレンドに合っているか、という視点で選ぶことが可能になる。

業界ではこれまでも、データを基にヒットを狙う取り組みが行われてきた。過去20年間のヒット曲を分析し、キャッチーなコード進行に、変動が少なく口ずさみやすいメロディ、サビでの印象的な歌詞の繰り返しといった要素を盛り込み、ヒットを狙うプロジェクトなどがあった。未来のトレンドが把握できるようになれば、ヒット曲を狙うプロセスもさらに多様化しそうだ。

ビルボード事業部の植田匠人氏は、トレンド予測によって、楽曲制作に科学を持ち込めると指摘する。「これまで、プロデューサーなどが『この曲がよい』と感覚で選んでいたものが、脳情報を基に、どの曲がよりトレンドに合っているか判断できるようになる。ヒット曲を生み出すためのサービスを提供していくことが、研究の一つの出口になる」(植田氏)。

今後はレコード会社や音楽出版社、音楽事務所、広告代理店に向けて、アーティストの発掘・育成やマーケティング支援など、共同研究に基づくトライアルサービスを提供していく方針。脳情報の活用で、音楽業界に新たなヒットの方程式を作り出せるか。前例のない挑戦は、これからが本番だ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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