慶應監督が警鐘「高校野球で体罰」が消えない訳

自分自身の価値観を子どもに押しつける指導者

高校野球の監督、あるいは大きく捉えて指導者というのは、少しでも物事を良くするために日々模索していく職業だと考えていますから、真理に一歩でも近づけるように努力し続けるつもりです。

選手への言葉かけ、選手とのコミュニケーションという意味では、私は選手をよく見る、よく観察することを心がけています。そして、そのうえで話しかけるなどの意思疎通を図っていますが、選手を「見る」「観察する」という行為は、話す以上に重要だと感じることもしばしばです。

例えば、普段から選手のことをよく見ていないにもかかわらず、何の気もなく「お前、いつも頑張っているな」と声をかけたとしても、選手の心には響かない可能性が高いでしょう。

実際は、その選手はうまくいっていないと感じているかもしれませんし、そのせいで悩んでいるかもしれません。そうなると、声をかけられた選手は、「この監督は俺のことをちゃんと見てくれていない」と思うだけで、信頼関係の構築にはつながりません。

それとは反対に、日頃からよく観察したうえで、「最近、ちょっとタイミングのとり方を変えたね」や「新しいスパイクにしたんだ」といった声かけを実践すると、選手は「この人はちゃんと僕のことを見てくれている」「そんなことに気付くなんて、鋭いな」と思うようになります。

「少子化」で子どもたちが敏感に

なぜ、選手をよく観察することが大事なのか──。それには、現代の少子化も大きく影響しています。かつてのように、5人や6人きょうだいといった家庭は極端に少なくなり、一人っ子や2人、多くても3人きょうだいまでという家庭が増えました。

つまり家庭でも、親が子ども一人ひとりをよく見る時間が増えている影響で、部活動やグラウンドにおいても指導者が自分を見てくれているかどうかに対しては、かつての同年代よりも敏感になっているはずです。

だからこそ「見ている」「観察している」ことを伝えるために、そのサインとしての会話が必要になってくるのです。

慶應義塾高校野球部には約100名の部員がいますが、それだけの数の部員を分け隔てなく平等に見られているのかと問われれば、答えはノーです。物理的に難しいというのが正直な回答です。

しかし、こうした私の至らない部分を補ってくれているのが学生コーチです。彼らは全員、慶應義塾高校野球部出身で、部内のことをよく理解してくれています。

彼らを含めたスタッフが総勢約15名在籍しており、私の2つの目だけではなく、30以上の目で100名の部員を見られる体制を整えています。彼らの「目」があることで、私自身、本当に助けられています。

選手をよく見て会話することで生まれる、もう一つの具体的な変化があります。それは、選手がスタッフに自分たちの悩みやアイデアなどを相談しやすい空気が、チーム内に醸成されることです。

例えば、ウォーミングアップや練習メニューにおいて、選手たちから「こういうことをしたい」といった提案が頻繁に出てくるようになります。野球は場面ごとに、その都度、個人の判断が求められるスポーツです。

そのため、練習メニューの組み立ての段階から、選手が考えて判断した意見が活発に出るのは非常に良いことですし、それがチームの成熟へとつながっていきます。

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