菅首相に放送業界の人々が戦々恐々とする訳

電波料見直し、NHK受信料値下げの行方に注視

筆者は「命令放送」という制度がそもそも奇妙なものだったと感じるが、「停波可能発言」と併せて考えると、制度に則って強いことを言う菅氏の姿勢が浮き彫りになる。そして菅氏が第1次安倍政権の短い期間ではあるが総務大臣を経験していることは重要だと思う。内閣総理大臣就任早々、さっそく携帯電話の料金値下げを言い出したのも、この分野に通じているからだ。

また具体的な部分は官邸官僚に頼り切っていた安倍氏に比べると、菅首相は自ら制度を学び自ら考えて動くように見える。武田良太総務大臣は、これまでの経歴を考えるとこの分野に通じているとは言いがたく、菅総理の意向を反映する立場になるだろう。総務省の領域で菅氏が自らの考えを具現化する可能性は高い。

官邸官僚として暗躍した経産省出身者は退任しているが、そのうちのひとり、長谷川榮一内閣広報官の代わりに総務省出身の山田真貴子氏が広報官に就任した。そこには菅首相と総務省現場とのパイプ役の意味もあるかもしれない。

警戒する民放、恐れおののくNHK

民放側はこれまでの菅氏の放送業界への言動をもちろん覚えている。当然ながら警戒しているようだ。放送法などのルールを熟知し、それに則って強い態度に出ることもある。場合によっては「停波」を口にもする。そんなコワモテの政治家であることが民放にどう影響するか、戦々恐々のようだ。

とくに電波行政、民放が数十年間安い水準を認められてきた電波料を見直されたらたまったものではないだろう。民放はコロナ前から広告収入が激減しており、立て直しに躍起になっている最中だから、電波料が上がったらさらに打撃になる。ましてや電波オークションの話が出てきたら大汗かいて必死で止めることだろう。

ただ、菅首相が民放に圧を加えることで利する点があるようには見えない。菅氏のコワモテぶりは「お灸を据える」域でしかないと思う。むしろNHKのほうが懸念すべき点が多いかもしれない。例えば菅氏は総務大臣時代、「受信料値下げ」を国民の納付義務化とセットでNHKにかなり強硬に求めている。このときはプロパーで会長になった橋本元一氏が反対し、何度もやりあったという。

受信料値下げは安倍政権で高市早苗総務大臣が求めて実現しているので、いま値下げを菅氏が言い出すことはないだろう。ただ、第1次安倍政権で総務大臣としてNHK操縦法を会得していることを考えると今後は、安倍首相よりずっと巧妙に進めそうだ。われわれ国民としては、菅政権と民放・NHKの関係に目を光らせ、状況を把握する洞察力を磨きたいところだ。

そしてこの機に、公共放送なのに経営委員は政権の意のままにできるというNHKの不思議なガバナンスについて議論できる俎上ができるといい。受信料を払っているわれわれは株式会社で言えばNHKの株主。NHKは国民のものだと言える制度にしていきたいものだ。政権から、国民にとってプラスにならない圧がかかっていると感じたら、すかさず世論で対抗できるよう、その関係を注視していきたい。

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