音楽・映像ソフト業界が陥る負のスパイラル、頼みの携帯配信も頭打ち、「神風」を待つ音楽業界【下】

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レコード会社が気づかない需要を掘り起こすべく、川下の特性を生かすのはタワーレコードだ。

「ヒットは出にくくなったが、小さいチャンスは偏在。レコード店でもできる」と髙木社長。1月には、同社と縁のあるアーティストたちによるコンピレーションアルバムを発売。今後は廃盤の復刻、忘れられた旧譜の発掘にも力を入れていく。

だがこうした打開策も、生産額、店舗数の長期衰退傾向に歯止めをかけるには不十分だ。店舗販売をCD販売の基本とするかぎり、店頭在庫の問題を避けて通れない。

CDでは、同じ再販商品でも委託制で返品自由な書籍類と違い、買い取り制を採るため、売れ残りリスクを小売りが負う(1割程度の定期返品を除く)。

そうでなくてもCD不振で、リスクを避けたい販売店は発注を控える。当然レコード会社の生産も減り、ますます店頭は貧弱になる、という悪循環に陥っている。

委託か、買い取りか そろわない両者の足並み

小売り側の希望は委託制の導入だ。「全部委託に、とは言わない。一緒にキャンペーンを打つときに協力してほしい。リスクを分担して売り上げを伸ばそうということだ」と関係者は訴える。メーカー在庫の消化が進むため、相対(あいたい)でひそかに行われているようだが、一気には進まない。

大きな理由はアーティストやプロダクションとの関係だ。現状は、たとえ売れなくてもCD出荷時点でアーティストに印税が入る。売れた時点で出荷となる委託はアーティストにとって不利益変更。レコード会社は機嫌を損ねたくない。

結局、ヒット次第じゃないか、ということになる。「制作能力を再度高め、ヒットとスーパースターをつくる」(ユニバーサルの小池CEO)と、強烈な自負心が顔を出す。

米アトランティック・レコーズ創設者は「1曲のヒットが窮状を好転させる」という言葉を残した。残念ながら、この窮状を好転させるのに、1曲ではとても足りそうにない。

(筒井幹雄、中島順一郎 撮影:吉野純治 =週刊東洋経済)

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