米巨大ハリケーン襲来で原油は急騰するのか ローラとマルコ上陸で石油施設に深刻な影響も

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すでにアメリカの製油所は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要の落ち込みを受け、稼働率が80%強にまで低下している。今回のハリケーン上陸でさらに稼働率が下がるようなことになれば、製油所における原油の消費も減少、弱気材料視されることもあり得る。ハリケーンの上陸後に海上油田の生産が順調に回復する一方、製油所の被害が甚大なものとなることがあれば、売り圧力が思った以上に強まることもあるかもしれない。

そのほか、ハリケーン上陸で港湾が閉鎖されることの影響にも注意が必要だ。ハリケーン「カトリーナ」の際には、ルイジアナ州の主要港であるニューオーリンズが直撃を受け、一時的にメキシコ湾岸地区の輸入量がピーク時の半分近くにまで落ち込み、その後2カ月間に渡って輸入に影響が出る格好となった。

短期では輸出減、中長期では需要落ち込みも

もっとも最近はやや様子が変わり、影響を受けるのは輸入だけではない。政府の規制緩和によって、今やアメリカは立派な石油の輸出国になっており、輸出の水準は原油高で輸入の約半分、原油と石油製品の合計で見ると8割程度まで増加してきている。そう考えると、港湾の閉鎖によって輸入だけではなく輸出も停止してしまうことを考えれば、需給への影響は限定的なものにとどまると見てよいだろう。

このように、ハリケーンのメキシコ湾岸直撃というのは、イメージほど原油市場に対して強気の材料となるわけではない。ハリケーンが接近している間は施設の閉鎖や生産停止のニュースに注目が集まり、買いを呼び込むことが多い。だが、中長期的な視点で見ればその後の需要の落ち込みが弱気に作用することのほうが多いと考えられる。

特に今回はアメリカ南部で新型コロナウイルスの感染拡大による経済への影響が顕著になっているタイミングだ。それだけに、被害が大きくなればそれをきっかけに経済活動がさらに落ち込むリスクも考慮に入れる必要がある。景気の先行き不透明感が強くなる中で高値圏にある株価の調整が進むなら、原油市場に対する売り圧力も改めて強まりそうだ。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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