激痛でも撮った!鉄道写真家の壮絶撮影記録 美しい写真が生まれた背景には壮絶な体験が

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

現場に着き、強風を防ぐように海に背を向けカメラを用意。そしていざ撮影しようと立ち上がった瞬間、断崖を駆け上がってきた強い海風に体があおられ、その勢いで持っていたカメラのホットシュー(ファインダー上部にある外部フラッシュを装着する部分)に額を強打した。荒波の轟音にも勝るとも劣らぬ声で「痛って~~~!!」と叫んだが、強い使命感が私を奮い立たせ、必死に撮影を敢行。すぐに痛みが引いたこともあり、その後は気にすることもなく30分程撮影を続けた。

額に深い傷を負いながら撮影した津軽海峡線を走る列車(筆者撮影)

撮影を終え車に戻り、被っていたバラクラバを脱ごうとしたときだ。ヌメッとした妙な感触が指に伝わった。指が真っ赤に染まっている。改めて脱いだバラクラバを見ると額を中心に血がベッタリと付いていた。慌てて車のルームミラーで確かめると額に深い傷があり、そこからわずかだが出血している。その姿に「流血後にマスクをはぎ取られた覆面レスラーか?」と冗談を叩く間に痛みが湧いてきた。

今まで痛みが引いていたのはあまり寒さに麻痺していたのだろう。しばらく傷口を強く押さえたら止血ができたので、大きな絆創膏をはって応急処置は完了。以降の撮影はしばらくバンダナを巻くなどして傷を隠していた。あれから5年経ったが、そのときの額の傷は今も残っていて“天下御免の向こう傷”として私の勲章のひとつになっている。

慢心が事故を生み、臆病が事故を防ぐ

撮影中のケガというのは鉄道写真撮影だけではなく、ほかの写真分野でもよく聞く話だ。今までのお話は痛い程度の内容ですんだが、ケガの度合いによっては鉄道会社や沿線住民、そして家族に迷惑をかけることになりかねない。それはもはや自己責任だけで片付くレベルではない。

現在私は家庭を持ち、体は私ひとりだけのものではなくなった。だからこそ撮影地ではいつも怖さを覚えるほどの最悪なシミュレーションをして行動している。慢心が事故を生み、臆病が事故を防ぐのだ。皆さんも恋人や伴侶、親や子供など、ぜひ大切な人の顔を思い浮かべながら撮影のルールとマナー、そして安全第一を胸に慎重の上にも慎重を重ねて鉄道写真撮影に臨んでほしい。

助川 康史 鉄道写真家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

すけがわ・やすふみ / Yasufumi Sukegawa

1975年東京生まれ。秋田経済法科大学法学部、東京ビジュアルアーツ写真学科卒業後、鉄道写真家の真島満秀氏に師事。鉄道車両が持つ魅力だけでなく、鉄道を取りまく風土やそこに生きる人々の美しさを伝えることをモットーに日本各地の線路際をカメラ片手に奮闘中。鉄道ダイヤ情報や鉄道ジャーナルなどの鉄道趣味誌や旅行誌の取材、JTB時刻表(JTBパブリッシング)やJR時刻表(交通新聞社)などの表紙写真を手掛ける。またJR東日本などの鉄道会社のポスターやカレンダー撮影も精力的に行っている。日本鉄道写真作家協会(JRPS)理事。(有)マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ勤務。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事