アメリカの「無印」破綻にみる拡大路線のひずみ 海外展開を加速も、欧米はコロナ前から苦戦

拡大
縮小

出店先の選定や売り上げ計画の見極めの甘さはアメリカ以外の事業でも露呈している。ヨーロッパでは、昨年秋にスイスとフィンランドに大型店を出して初進出を果たすなど拡大路線を進めるが、2019年度のヨーロッパ事業は営業赤字へと転落。要因は出店費用がかさんだことに加え、スイスとフィンランドの新店、さらにスウェーデンの改装店舗や2年前に開業したスペインの旗艦店の売り上げが計画未達となったことだった。

人目につく一等地に一定の売り場面積を確保して独自の世界観を演出することは、ブランド発信強化という意味で理にかなった戦略ではある。ただ、中国など現地人材の育成が進んでいる地域を除けば、海外で展開国や事業規模を広げるには駐在員らの派遣費用がかさむうえ、国によっては店舗の賃貸契約年数が長く容易に撤退できないなどといったリスクを伴う。「今後はKPIを増やして出店の是非は慎重に判断していきたい」(松﨑社長)。

露呈する拡大路線の弊害

拡大路線に伴うしわ寄せは、在庫管理の面にも及んでいる。良品計画の前2019年度決算は、売上高4387億円(前期比7.1%増)、営業利益は363億円(同18.7%減)と、増収ながら減益で着地した。全社的に商品在庫が過剰気味となり、値引きセールを頻繁に行った結果、粗利率が悪化したことが主因だった。

過剰在庫の多くは、高い販売目標の下で仕込みを強化した国内事業で、計画していた売り上げが取れずに売れ残った生活雑貨や衣料品などが中心だ。

一方、海外でも前期は香港や韓国で売り上げが急減し、だぶついた大量の在庫を、国をまたいで調整することに手間取った。店舗数や展開エリアが拡大していけば、生産量の調整や国別・店舗別の商品分配量の見極めなどにおいて緻密な在庫管理が求められるようになる。今後は商品計画部で仕入れ・発注コントロールを徹底しながら、2021年8月までに在庫を適正化する方針という。

良品計画の今2020年8月期(決算期変更で6カ月の変則決算)は、新型コロナウイルスの影響で大部分の店舗が営業停止したことにより、上場以来初の営業赤字となる見通し。チャプター11を申請したアメリカ事業も、仮に賃料交渉が進んだところでブランドイメージの立て直しには時間がかかる。

独自の世界観から世界中にファンを広げ、海外展開に成功した日系ブランドの代表格とも言われる無印良品。成長軌道へと戻すには、事業規模拡大を追い求める前に、出店計画や在庫管理など基本戦略を見つめ直すことが不可避となる。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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