東京の町医者から見えるコロナ感染蔓延の現実 持続可能な感染制御には細やかさが必要だ

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私は保健所でHIVの診断業務もお手伝いしている。梅毒を含めて、性感染症は増加傾向にある。新型コロナ感染者の多くが10~30代だというのはまったく不思議なことではない。彼らには「当然知っているでしょ」と思い込まず、基本から感染制御の指導をしなければならない。

ただ、彼らに過度の自粛を強いるつもりはない。青春を謳歌したい世代だし、恋愛もしたい世代の彼らを止めることは現実的ではない。世界的な医学誌『ランセット』では新型コロナの感染拡大に関連してセックスワーカーへの対応の重要性が議論されているが、「夜の街」への対応も含めて、日本は何周も遅れていると言わざるをえない。

結局、本人の「健康」が決め手

新型コロナウイルス感染対策は、結局、本人の「健康」が決め手になる。

診療所における患者さんとのやり取りはパーティションを通じて行っている(写真:筆者提供)

個別指導が必要である前提なら、持続可能な感染制御は、かかりつけ医にしかできない仕事となる。

例えば、これからの季節、高齢者は熱中症に注意しないといけない。2018年熱中症が原因の死者数は1800人だ。ほんの2~3カ月の出来事だ。

武漢のデータから、屋外で感染しないことは、ほぼわかっている。暑いさなかに密集して炎天下に長居する人はいない。屋外ではマスクを外してもいいのだが、他人の目が気になるご時世でもある。

陰性証明を首からぶら下げるようなことができるかといえば現実的ではないし、そもそも光景として滑稽すぎる。やはり、公的に「夏は屋外でマスクを外しましょう」とアナウンスするしかないのではないだろうか。

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行政も感染者数ばかりをアナウンスするのではなく、性別、年齢、市中感染と施設内感染を「分類」して発表したほうが有益だろう。重症入院につながる気配を察知することで、医療体制を整えることができるからだ。

逆にこれまでなぜそれをしてこなかったのかが不思議になる。おそらく現場感覚がないからであろう。感染症は社会風俗と密接に関係している。キレイなところで生活しているだけでは想像力が働かない。それだけは、政治家にも官僚にも声を大にして伝えたい。現場の医師からの「フィードバック」も「フィードフォーワード」もどちらも大切だ。

原田 文植 医師・医学博士、福島県立医科大学 災害支援講座 助教

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はらだ ふみうえ / Fumiue Harada

1971年、大阪生まれ。福島県立医科大学 災害支援講座 助教。医師・医学博士。内科認定医。認定産業医。スポーツ健康医。在宅医療認定医。1998年大阪医科大学卒業。2005年大学院終了。国立感染症研究所研究員にてフラビウイルスの研究に従事。2008年より地域医療に従事し、診療所で発熱外来なども積極的に導入。執筆活動、武道家・格闘家との交流、映画出演、都内を中心に音楽ライブ活動など幅広く活躍。

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