新型コロナウイルスとの戦いにおいて、最も人手や資源が逼迫している業界の1つである医療へのサイバー攻撃が活発化している。ルーマニアのサイバーセキュリティ企業「ビットディフェンダー」が2020年3月に検知した医療業界へのサイバー攻撃の件数は、2月より6割も増えた。サイバー攻撃がこれだけ激増したのは、過去1年間で初めてである。
病院や医療研究機関、大学、製薬会社などへのサイバー攻撃は、2種類に分けられる。1つは、新型コロナウイルス用のワクチンや治療法などの知的財産を盗むスパイ活動、もう1つは、身代金要求型ウイルス(ランサムウェア)を使った攻撃による業務妨害だ。
例えば、5月上旬、抗ウイルス薬「レムデシビル」も作っているアメリカの製薬大手がイラン政府系のハッカー集団からサイバー攻撃を受けていたと報じられた。パスワードを盗むためのなりすましメールが製薬会社の幹部に送られていたという。
現時点で事例は報じられていないが、臨床試験結果や研究データの改ざんや削除によってワクチンや治療の提供に遅れが出る可能性についても、アメリカ政府は危惧している。
中国のスパイ活動を警戒するアメリカ
5月13日、アメリカの連邦捜査局(FBI)と国土安全保障省傘下のサイバーセキュリティ・インフラ防護庁(CISA)は、新型コロナウイルス関連の研究を行っている組織が中国に狙われているとして警戒を呼びかけた。ただし、共同文書には、中国からの具体的なサイバー攻撃の事例は書かれていない。
FBIとCISAは、ワクチン、治療法、試験に関する貴重な知的財産や公衆衛生情報を不正に得ようとして、中国のハッカーや従来とは異なる情報収集者たちが活動していると指摘した。こうした情報が盗まれれば、安全で効果的かつ効率的な治療が脅かされると危機感をあらわにしている。しかし、中国外交部の趙立堅副報道局長は、共同文書を「中傷」と一蹴した。
「従来とは異なる情報収集者たち」という聞き慣れない言葉は、職業スパイと区別するためにアメリカの情報機関が使う呼称だ。大学やシンクタンク、研究開発機関で働き、最先端技術などの情報を集めて中国の軍事・戦略上の目的を果たす手伝いをする者たちを指す。
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