中国の「太子党ファンド」、そのコネと実力 著名投資家を引きつける力

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2つの投資案件

博裕投資顧問が注目度の高く、高リターンな投資案件でその影響力を発揮するとの名声を確立した2つの案件がある。江志成氏はその両方で交渉役を担った。

2012年、アリババの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏は江氏と向かい合っていた。博裕投資顧問は、アリババが米ヤフーから自社株20%を買い戻すのに必要な71億ドルの一部を調達するために設立された中国投資有限責任公司(CIC)主導のコンソーシアムに参加。コンソーシアムは資金調達の見返りにアリババ株5.6%を取得した。当時、アリババの評価額は約380億ドルだった。

アナリストらの試算によると、現在のアリババの時価総額額は少なくとも1400億ドルに上る。つまり、コンソーシアムを通じた博裕投資顧問のアリババへの出資分は、1年半の間に3.5倍以上に増えたことになる。

アリババは今年の第3・四半期に米国で株式を上場すると発表している。IPOの規模は、2012年の米フェイスブックの160億ドルを上回る可能性があるとみられている。

また、2人の関係筋によると、博裕投資顧問は中国信達資産管理に約5000万ドルを投資。IPOに先立ち引き受けを行う「コーナーストーン投資家」(戦略的投資家)として、中国の全国社会保障基金(NSSF)やスイスの銀行大手UBSなどとともに名を連ねていた。

ヘッドラインリスク

一方、太子党の特権は必ずしも永久に続くわけではない。それがたとえ、存命の元国家主席の孫であったとしてもだ。薄煕来・元重慶市党委書記の失脚は、プライベートエクイティに出資する投資家たちのこうした考えをいっそう強固なものとした。

外資系企業で働く投資家たちのなかには、「太子党ファンド」に出資することに慎重になる者もいる。新聞の一面に出て、取引が水泡に帰す可能性「ヘッドラインリスク」もささやかれる。習近平国家主席が汚職撲滅運動を強化するにつれ、こうした懸念は高まっている。

ある欧州の投資家は、勤め先では太子党ファンドと一緒になって投資することについて意見が分かれているとし、「自分は反対だが、多くの同僚が賛成している。太子党ファンドはもろ刃の剣だ」と語った。

(Stephen Aldred記者、Irene Jay Liu記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)

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