赤字転落も?JR本州3社の20年度「鉄道収支予測」 3つのケースに分けて予測、ピンチの会社は…

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JR旅客会社6社の鉄道事業における営業費用について、鉄道統計年報の2015年度から2017年度までの3年間のデータから、列車の本数を10%、20%、40%それぞれ間引いた場合に相当する削減率を求めた。車両保存費や運転費中の動力費、駅や施設に関する費用である運輸費のなかで、人件費を除く経費をそれぞれ列車を間引いた比率に応じて差し引き、それから案内宣伝費は固定費と見られる人件費を含めて全額削減している。算出された削減率を各社10%、20%、40%それぞれ列車を間引いた順に挙げると、JR北海道は1.40%、2.57%、4.90%、JR東日本は2.33%、3.86%、6.92%、JR東海は2.36%、3.91%、7.00%、JR西日本は1.96%、3.81%、7.51%、JR四国は1.42%、2.55%、4.81%、JR九州は2.08%、4.02%、7.90%だ。

なお、JR旅客会社に限らず、鉄道事業は固定費の比率が極めて高いため、列車を1本も動かさなかったとしても営業費用の削減は限られてしまう。2015年度から2017年度までのデータから、変動費と見られる金額をすべて削減したとしても固定費の比率はJR旅客会社6社合わせてなお83.08パーセントにも達している。

今回、JR北海道、JR西日本、JR四国、JR九州の4社は固定費の削減を狙って社員の一時帰休を実施した。最も規模の大きいJR西日本では駅員、運転士、車掌、本社の間接部門の社員を対象に1日当たり約1400人の一時帰休を2020年5月16日から当分の間行うというが、その効果を試算しても1カ月当たり数億円程度にすぎず、月額平均で714億円となる同社の営業費用からみればごくわずかだ。したがって、社員の一時帰休については営業費用の誤差の範囲内と見なして考慮しないこととした。

3)3つのケースのシナリオ

共通しているのは2020年4月と5月とでの旅客運輸収入の減少率だ。各社が公表した月ごとの旅客運輸収入、輸送量の推移やゴールデンウィーク期間中の利用状況を参考としている。

4月の旅客運輸収入の減少率は、新幹線、在来線とも定期旅客は通勤定期が60%、通学定期が100%、新幹線の定期外旅客は95%、在来線の定期外旅客は90%とそれぞれ考えた。

5月の旅客運輸収入の減少率は、新幹線、在来線とも定期旅客は通勤定期が50%、通学定期が90%、新幹線の定期外旅客は95%、在来線の定期外旅客は90%とそれぞれ予測した。

ビジネス客、旅行客はどうなる?

6月以降の旅客運輸収入の減少率については3つの前提を掲げた。ケース1は新幹線、在来線の定期旅客、定期外旅客とも2019年度の水準に戻るというもので、比較的楽観的な予測と言えるであろう。

ケース2は新幹線、在来線とも定期旅客は2019年度の水準に戻り、新幹線、在来線とも定期外旅客は20パーセント減が続くというものである。緊急事態宣言はすべての都道府県で解除されても、「新しい生活様式」の励行により、ビジネス客、旅行客とも落ち込むと考えられるからだ。

ケース3は新幹線、在来線とも定期旅客は2019年度の水準に戻り、新幹線、在来線とも定期外旅客は40%減が続くという内容である。ケース2で考慮した点に加え、インバウンド需要は当面見込めないし、例年7月、8月に上昇する夏休みの旅行需要も、休校期間が長引いて夏休みが中止または短縮となるなかでは生じるはずもないからだ。

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