赤字転落も?JR本州3社の20年度「鉄道収支予測」 3つのケースに分けて予測、ピンチの会社は…

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JR西日本

本州3社のなかで、JR西日本は厳しい位置に立たされていることが今回の試算で明らかになった。ケース1で221億円、ケース2で1377億円、ケース3で2407億円と、同社はJR旅客会社本州3社中でただ1社、3つのケースのいずれでも営業損失を計上すると予測されたからだ。

JR西日本は今回の新型コロナウイルス感染症の影響を長く受けると目される。というのも、同社の旅客の多くはインバウンドが占めていたと考えられるからだ。とはいえ、同社を含めてインバウンドの旅客の輸送状況についてJR旅客各社は発表していないので、はっきりとは言えない。

それでも判断材料は存在する。定期、定期外双方の旅客に関して輸送状況の推移を調べると、ある程度は推測できるからだ。

2010年度と2019年度とで定期、定期外双方の旅客の旅客運輸収入と旅客人キロとの推移を見ると、JR西日本に生じた定期外の旅客についての変化が大きい点に気づく。旅客運輸収入を見ると2010年度の5786億円から7034億円へと1.2倍に増え、定期旅客に対する比率も79.5%から82.1%へと2.6ポイント上昇した。JR旅客会社6社のうち、JR西日本以上にポイントが増加したのは74.8%から77.9%への3.1ポイント増となったJR九州しか見当たらない。一方、旅客人キロに占める定期外旅客の比率の伸びも目覚ましく、55.5%から59.6%への4.1ポイントの増加とJR旅客会社中で最も大きな値を示した。

比較した2つの年度でJR西日本に生じた変化というと2015年3月開業の北陸新幹線だ。定期外の旅客はビジネス客か旅行客のどちらかと考えられ、同社の場合は後者であろう。国内の旅行客が増えた影響も当然考えられるが、やはりインバウンドの伸びが大きいと推測するほうが自然であろう。

JR西日本は自社の今後の状況に備え、市場での資金調達に励んでいる。2020年5月15日には総額1900億円の社債7本の条件が決定した。うち1本は50年物、200億円と超長期である点も注目される。

国や自治体への影響も大きい

JR東日本をはじめとする本州のJR旅客会社3社の業績の悪化は、国や沿線の自治体に影響を及ぼす点も覚えておきたい。2020年3月31日現在、JR東日本単体の貸借対照表から固定負債の部を見ると、鉄道施設購入長期未払金として3229億円が計上されている。これは国から東北新幹線の上野―盛岡間と上越新幹線全線とを割賦で購入した代金の残りで、実質的には旧国鉄の長期債務の返済に充当されるものだ。それから、同社の決算書からはわからないが、2017年度の鉄道統計年報を見ると、鉄道事業分だけとして固定資産税などの地方税を沿線の自治体に合わせて年間858億円を納めている。国も沿線の自治体も極力JR東日本には現在の体制のまま推移させなくてはならない。となると、一刻も早く旅客運輸収入が向上するような政策が必要となる。

JR東海単体の貸借対照表で固定負債の部を見ると、2020年3月末現在で鉄道施設購入長期未払金の残高が5327億円、中央新幹線建設長期借入金の残高が3兆円とあった。前者は東海道新幹線を割賦で購入した代金の残り、後者は国からの財政投融資である。同社の経営が揺らぐということは3兆5327億円の行方が怪しくなることを意味し、JR東海に財政投融資による貸し付けを行っている日本政府にとっても大きな危機だ。なお、2017年度に同社が沿線の自治体に納めた固定資産税などは合わせて392億円であった。

JR西日本にも山陽新幹線を割賦で購入した鉄道施設購入長期未払金の残高が2020年3月末日現在で1012億円あり、2017年度に沿線の自治体に納めた固定資産税などの総額は330億円だ。ここしばらくはこれらが相当な重荷となるのは確かであろう。

JR北海道、JR四国、JR九州の収支予測については次回に記したい。

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