42歳パート妻「コロナ解雇」で身にしみる格差 「年収100万円程度」の働き方はお得ではない

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正社員であれば、会社の健康保険に加入していますから、病気やケガを理由に3日間連続で働けない状態が続くと4日目から最長1年半、給与の約3分の2が「傷病手当金」として保障されます。この傷病手当金についても、今回の緊急事態では拡大支給されることになっています。「自覚症状がないものの陽性の判定を受けた」「発熱などが疑わしい病状があり、医療機関の受診はかなわなかったが、自宅療養をした」といった場合でも支給されます。

パート主婦はどうなるかといえば、勤め先の健康保険に加入していなければ傷病手当金は支給されません。夫の社会保険の扶養に入っているのであれば、そちらから給付が出るのでしょうか。残念ながら、こちらからの支給もありません。夫は会社の健康保険の「被保険者」なので傷病手当金の対象になりますが、パートの妻は対象ではありません。例えば夫がコロナに感染し、その看病のためにパートの妻が仕事を休んだという場合も、夫に収入保障はありますが、妻にはありません。

「生涯パート」で死亡すると、遺族まで損をする

万が一、コロナで亡くなったらどうなるでしょう? こちらもやはり、会社で厚生年金に加入している正社員と、配偶者の扶養で第3号被保険者となっているパートの主婦では保障がまったく違います。

ご相談者は女性でお子さんが中学生ですから、パート主婦という立場で亡くなると国民年金から約100万円の遺族基礎年金がお子さんの高校卒業まで支給されます(夫の年収が850万円未満であることが条件)。でも、年収200万円で正社員として働き始めてすぐに亡くなったとすると、遺族基礎年金にプラスして遺族厚生年金も支給されます。遺族厚生年金は働いた年数や年収によって異なるのですが、今回のケースで考えると、年間20万円ほど上乗せされて、同じくお子さんが高校を卒業するまで支給されます。

ご相談者が元気に60歳まで正社員として働けば、65歳から支給される老齢基礎年金に老齢厚生年金が加算されます。年収が18年間変わらないとしても、年間20万円程度、自由になるお金が増える計算です。仮に100歳まで長生きすると、受け取れる年金額が700万円多くなります。ご相談者が年収200万円で正社員になるというのは、総合的に「働き損」とはいえない条件だったように思えます。

「昨年、正社員登用をお断りしたいちばんの理由を正直に言うと、ちょっと自信がなかったんです。子どもが生まれて10年以上、一生懸命に専業主婦をしていましたが、外で働くことにおじけづいてしまったというか。家族は私が働くことを応援してくれていたのですが、自分で自分にブレーキをかけてしまって。でもこうやって解雇されちゃうと、やはり悔しい……。お金だけではない部分も本当は感じていたので、少し考え方を変えたいと思います」

ご相談者は次のチャンスを目指して、これからは何か資格取得のための勉強も始めたいそうです。

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー、FP相談ねっと代表

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やまなか のぶえ / Nobue Yamanaka

FP相談ねっと代表。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。アメリカ・オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」ビジネスパーソンのためのライフプラン相談、講演を数多く手掛ける。大手新聞社主催のiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAセミナーの講師など登壇も多数。金融庁のサイトで、有識者コラムを連載。著書に『「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書』(インプレス)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)、『100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法』(日本法令)ほか。公式サイト

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