コロナワクチンに「最速で9月量産」という光明 英オックスフォード大学が早くも治験開始

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もちろん、サルで免疫ができたからといって、ヒトにも同程度の免疫ができるとは限らない。ただ、144人を対象に臨床試験を最近開始した中国のシノバック社も、アカゲザルの実験でワクチンの有効性を確かめたとしている。ワクチンを見つけるために何十もの研究が進行する中で、サルを使った今回の実験結果は、オックスフォード大学の取り組みが一気に先頭に躍り出てきたことを物語る。

「とてつもなく迅速な臨床プログラムだ」と、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団でワクチンプログラムのディレクターを務めるエミリオ・エミニは語る。同財団は、さまざまなワクチン開発プログラムに資金援助している。

だが、どれが最も効果的なワクチンとなりうるかは、臨床試験のデータが利用可能となるまではわからない。

研究が失敗に終わっても一定の成果

いずれにしても複数のワクチンが必要になる、とエミニは主張する。子どもや高齢者のような集団で他より効果を発揮するものもあれば、費用、投与量で違いが出てくる可能性もあるからだ。複数のワクチンを製造すれば、製造上のボトルネックを回避するのにも役立つ。

しかし、今回のような大規模臨床試験にこぎ着けたのはオックスフォード大学が初めてだ。たとえ試験が失敗に終わったとしても、ウイルスの特徴や免疫系の反応について貴重な情報を提供してくれるはずだ。

「イギリスの大規模な研究から、ほかの科学者も多くを学ぶことになる」とエミニは語った。ほかのワクチン開発プロジェクトも、同様の課題に直面しているからだ。ここには多額の資金調達、ヒト臨床試験の承認を得るための規制当局の説得、ワクチンの安全性の実証などが含まれるが、中でもワクチンの有効性を証明することが最大の課題になる。

ところが皮肉なことに、コロナウイルスの感染拡大の封じ込めに成功すればするほど、ワクチン開発のハードルは高くなるおそれがある。

「国内の新規感染者数があと数週間高止まりするのを望んでいるのは、私たちくらいだろう。でないと、ワクチンのテストができないからだ」。ジェンナー研究所所長のエイドリアン・ヒル教授は、イギリスの1カ月にわたる都市封鎖(ロックダウン)によって人気のなくなった研究施設の建物で行われたインタビューで、こう語った。教授はワクチン開発に携わっている5人の研究者の1人だ。

倫理規定では、原則として被験者に重篤な病気を感染させようとする行為は禁じられている。つまり、ワクチンの有効性を確かめるには、ウイルスの感染が自然に広がった場所で接種を行うしかない。

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