金正恩「重体説」「死亡説」、どちらが正しいのか 錯綜する情報、それでも北朝鮮は沈黙を守る

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北朝鮮指導者の生死にまつわる報道に関してもう1つ、前例がある。1986年に「金日成、銃撃で殺害」と韓国紙が報道した。冷戦時代のことであり、韓国側はこのニュースに浮き足立った。ところがその直後、北朝鮮を訪れたモンゴルのジャムビン・バトムンフ人民革命党書記長(当時)を金主席が平壌空港で出迎える映像が北朝鮮メディアから流され、韓国紙の報道が誤報となったことがある。

今回、北朝鮮の報道を総合してみると、最高人民会議の開催が延期されたことや錦繍山太陽宮殿を参拝しなかったことは、新型コロナウイルスの感染拡大を念頭に対策を徹底したため、と見ることもできなくはない。

新型コロナ対策で参拝を回避したか

北朝鮮は、中国における新型コロナウイルスの感染者発生を知ると、1月下旬には国境を封鎖、国外からの鉄路、航空路も遮断するなど、すばやく行動した。また、過去の感染症流行の時と比べても、今回は徹底した防疫活動を行っている。

全国から少なくはない人が集まる会議に対して新型コロナ対策で行事を延期したり、最高指導者は用心のために参拝しないという理由づけも、北朝鮮の現状を見るとおかしいことではない。

北朝鮮は国家体制上、情報を管理できる。また、前例主義が相当強い。特に、国家の根本に関わる問題で前例を踏襲せず、何か新しいことを始めるのは非常に難しい国だ。当然、最高指導者の死は徹底的に管理される。仮に最悪の事態を迎えた場合には公表時期や内容などを緻密に検討した上で、ようやく実行される。北朝鮮からの報道はそのような複雑な過程を経て、外部の人間にようやく事実が知らされるのだ。

その段階以前に漏れてくる情報はあくまでも断片的な情報であって、核心的な情報であることは非常に少ない。先に触れたデイリーNKとCNNの報道以降、筆者も関係者や専門家などの取材を行ったが、真実にはとうてい到達できない。

現時点でうかがい知れることは、「何らかのハプニングがあった可能性はあるが、それほど大きな健康問題もなく、金委員長は生存している。また、北朝鮮東部・元山(ウォンサン)に滞在中」というもの。だが、これがどこまで本当なのかは判断できない。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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