韓国サムスン、「TV用液晶から撤退」の背景事情 中国勢が席巻、代わりに大型有機ELで攻勢

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BOEのほか家電メーカーTCL傘下のFPDメーカー「CSOT」(チャイナスター)やスマホ向け液晶で世界シェア2位の「天馬微電子」など、他の中国メーカーにも多額の補助金や税の優遇措置などが出されている。これら中国メーカーの攻勢によってFPDは供給過剰に陥り、パネル価格は下落。イギリスの調査会社IHSマークイットによると、2019年のテレビ用パネルの価格は前年比3~4割も下落した。

FPD価格が低迷し、採算改善が見込めない中、サムスンは液晶パネル生産からの撤退に動いた。2019年10月、サムスンを率いる李在鎔副会長はソウルから南に約80キロメートル離れた牙山事業所で、ディスプレイ事業に関する新規投資の発表会を開催。量子ドットディスプレイに総額13兆1000億ウォン(約1兆1800億円)を投資すると発表。液晶パネルの生産ラインを一部停止したうえで、サムスンが独自に改良した「量子ドット(QD)有機EL」の生産ラインに転換する方針を示した。

LGの牙城「大型有機EL市場」を攻める

QD有機ELは、液晶に代わって自社向けテレビに採用される。液晶パネルの価格下落に伴い、テレビの販売価格も下落しているが、高精細なGD有機ELを使ったテレビを投入することで付加価値を高め、ライバルであるLGと差別化して対抗することを意図している。

サムスンはすでに、スマホ向けの中小型パネルを有機ELの生産に特化している。有機ELの生産には一工場あたり最低でも5000億円の投資が必要とされているだけに、資金力に劣る日本や台湾勢が参入するにはハードルが高い。自社製のハイエンドスマホ向けだけでなく、iPhoneなど高付加価値品への販売も軌道にのっており、テレビでも同様の戦略を思い描く。

ただ、テレビ向けの大型有機EL市場は現状、ライバルであるLGディスプレイの寡占状態にある。ソニーやパナソニックなど日本メーカーの有機ELテレビにもLG製の有機ELパネルが使われており、液晶パネルにこだわり続けたシャープも、LG製を使った有機ELテレビに参入する。それだけに、LGの牙城を崩すのは容易ではない。

実はサムスンは5年以上前に一度、有機ELテレビの開発から撤退した経緯がある。当時はまだ液晶パネルの採算性が高い一方で、有機ELの技術コストが高かったのが理由だ。結果として、テレビ向け有機ELパネルではLGの先行を許し、テレビ分野での高付加価値戦略が遅れてしまい、それが現在まで響いている。

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