なぜ「トヨタ×NTT提携」、実は「必然」な深い理由 豊田章男がねらう「GAFAとは異なる」対抗軸

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NTTは、それらをつなぐ情報通信技術を持っている。

「社会システムに組み込まれたクルマを、最も上手に活用いただけるパートナーがNTTだと思っております。社会を構成するさまざまなインフラはNTTが提供する情報インフラに支えられております」

と、豊田氏は強調した。

NTTは、ウーブン・シティにおいて、5Gネットワークの活用、さらにIOWNの実験を視野に入れている。

GAFAとは異なる「軸」を打ち出せるか

トヨタは、平成30年の間に日本で時価総額を最も伸ばした企業であり、今や、世界で最も存在感のある自動車メーカーといっていい。そのトヨタを牽引する豊田氏が、「モビリティカンパニー」すなわちモビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社へのフルモデルチェンジを宣言したのは、2018年である。

あらゆるモノやサービスが情報でつながる時代を迎え、クルマ単体の販売を中心に据えてきた従来のビジネスモデルには限りがある。自動車を単体としてではなく、街や社会全体を構成する一要素として考えなければ、価値を生み出せない。

発想を、ハード主体からソフト主体に切り替え、いかにモビリティを使って人の役に立つか、便利なサービスを提供するかを考える必要がある。

つまり、そのサービス創出に欠かせないのが、スマートシティプラットフォームであり、ウーブン・シティというリアルの実証実験場、そしてNTTの情報インフラという次第だ。

自動運転技術を用いた未来の街づくりは、世界で進められている。例えば、アメリカにおける自動運転の実用化は、日本以上に進んでいる。中国は、自動運転の実用化やスマートシティの開発を政府主導で猛烈な勢いで推進している。ウーブン・シティはこれらと競り合うことになる。

対GAFAについて、豊田氏は、「世界で戦っている2社が手を組み合い、『日本もまたなかなかやるな』と言われるような対抗は、非常にウェルカムだと思います」と語ったうえで、「データの使い方については、人を中心とし、使う人々が幸せになる方法を考えることに、こだわっていきたい」と強調した。

GAFAによる個人データ独占が世界的に批判を浴びるなかで、データを金儲けの道具と考えて独占するのではなく、あくまで「人々が幸せに暮らすため」に利用する姿勢を貫く。それが、トヨタとNTTを結び付けた要素であり、提携が「必然」だった理由でもある。

ただし、誠実さや信頼性を打ち出すだけでは、スマートシティプラットフォーム構築をスピーディーに進めることはできないだろう。GAFAは、規模とパワーにモノをいわせるからこそ、一気に成果を上げている。中国のBATH(百度、アリババ、テンセント、ファーウェイ)も同様だ。

問われるのは、トヨタとNTTの実現力だ。日本から世界に向けて、新たな「軸」を打ち出せるのか。世界のITの巨人たちに「なかなかやるな」と言わせることができるのか。ウーブン・シティは、日本企業が、これからも世界に存在感を示せるかどうかの試金石となるだろう。

片山 修 経済ジャーナリスト

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かたやま おさむ / Osamu Katayama

愛知県名古屋市生まれ。経済、経営など幅広いテーマを手掛けるジャーナリスト。鋭い着眼点と柔軟な発想が持ち味。長年の取材経験に裏打ちされた企業論、組織論、人材論には定評がある。

『豊田章男』『技術屋の王国――ホンダの不思議力』『山崎正和の遺言』(すべて東洋経済新報社)、『時代は踊った――オンリー・イエスタディ ’80s』(文藝春秋)、『ソニーの法則』『トヨタの方式』(ともに小学館文庫)、『本田宗一郎と「昭和の男」たち』(文春新書)、『なぜザ・プレミアム・モルツはこんなに売れるのか?』(小学館)、『パナソニック、「イノベーション量産」企業に進化する!』(PHP研究所)など、著書は60冊を超える。

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