NTTに「渡りに船」だったトヨタ自動車との提携 トヨタの実験都市で基盤システムを共同構築

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スマートシティ事業の代表的なモデルは公共安全や交通管理に関わるシステムだ。例えば、街頭に設置した監視カメラや音声などを拾うセンサーから、人や車の動きなどの膨大なデータを収集する。それをAIで分析することで、あらかじめ混雑状況や事件発生を予測し、渋滞緩和や犯罪抑止につなげている。

国内では、札幌、千葉、横浜、福岡で情報通信を活用した街づくりの取り組みを展開しているほか、海外展開にも力を入れている。2018年12月には、海外の大型受注第1号としてアメリカのラスベガスにスマートシティのシステム提供が決まった。2019年春からシステムの本格提供を始めている。

2020年2月には、マレーシアでサイバージャヤ地区(情報通信技術産業の特別区)の交差点にカメラを設置し、車両数の監視や分析を行う実験をスタートさせた。これ以外にも、アメリカやアジアなど世界で70件超の商談が進んでいるという。

3月26日には地図大手ゼンリンの発行済み株式7%を取得し、業務提携をすることを発表した。両社の強みを持ち寄り、通信技術と地図情報を掛け合わせ、スマートシティ事業などに生かしていく方針だ。

スマートシティ事業で野心的な目標

NTTは海外のスマートシティ関連事業で2023年度までに10億ドル(1100億円)の売り上げを目指している。海外で複数の商談が進んでいるとはいえ、これはかなり野心的な目標だ。

NTTグループは長年、通信系を中心に国内を収益のメインにしてきた。近年は成長を求めてシステム系を軸に海外事業に注力しており、大型のM&Aも絡めて拡大を急ぐ。それでも、グループの売上高に占める海外比率は2019年3月期で2割にとどまる。

北米などでのNTTの知名度は決して高くはないため、グーグルやIBM、マイクロソフトなどに比べてネームバリューに劣る。そこで2019年シーズンからアメリカのインディカーレースの冠スポンサーになるなど、知名度引き上げに余念がない。

そうした中、世界的な知名度を持つトヨタと手を組んだ意味は大きい。今回の提携を生かして、海外のスマートシティ事業の商談拡大につなげられる可能性もあるからだ。また、事業面の期待もある。トヨタとの提携を通じて、自動車からより多くの移動情報の収集や分析ができれば、効率的な交通システムの設計や正確な渋滞予測など、スマートシティ事業のサービス展開にも生かせるからだ。

NTT関係者は「スマートシティ事業にどう生かせるかはモビリティから情報を取得してから。だが、(生データに基づいて)試行錯誤をできるようになることが大きい」と話す。トヨタに頼りにされた今回の好機をどれだけ生かせるか。大型提携の成果は、NTTの海外飛躍にとっても重要なカギを握っている。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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