楽天の「英語公用語化」は、ヤバいです 楽天・三木谷社長ロングインタビュー(その2)
英語公用語化によるメリット
――楽天は2010年の初夏から社内での英語公用語化を進めてきました。当初、かなり批判もありましたが、現時点での自己評価は?
(笑)批判ありましたね。なんで批判されるのか、それがわからないですね。一企業がやることはほっといてくれればいいんじゃない。
――今、どうですか。振り返ってみて。
いや、もうこれは、ヤバイですね。
――どうヤバイですか?
いや、もうこれがなかったら、たぶん今の地位にはいないと思います。売り上げもどんどん伸びていますし、国際的なプレゼンスも上がってきていますし、入社する社員のクオリティも非常に上がってきています。社員の視野もまったく変わってきている。
いくつか事例を挙げると、ひとつ目はエンジニアの採用。現在、日本のエンジニアの採用の70%は外国人です。彼らは日本語をまったく話しません。だから新入社員説明会というと、昔は外国人が数人いるという感じでしたが、今は「日本人いたの?」という感じになってきました。
インターネット企業は技術がいちばん重要です。ただ、日本でコンピュータサイエンスを専攻している卒業生は、だいたい年間2万人しかいません。それに対し、アメリカは約6万人、中国は100万人、インドは200万人いるんですよ。だから何百万人のプールから人を雇うのか、それとも2万人のプールから雇うのかによって、競争優位が全然変わってきます。
2つ目の事例として、日本で築いてきたビジネスのノウハウを、海外に浸透させていく流れが出てきました。今までは「日本」と「国際」の2つに担当を分けていましたが、今年からこれを一緒にしました。つまり日本の楽天市場のトップが、海外のeコマースについても責任を持つわけです。
これはけっこう画期的なことで、彼らは日本で培ったノウハウを、全部、海外に移植しようとするわけです。僕らは日本でゼロからビジネスを立ち上げて、もうすぐ流通総額が2兆円を突破しますが、そこまでに至るプロセスを全部わかっているのです。あのときはこういうふうにするべきだ、とか。
今度、日本で成功している営業のトップやマーケティングのトップが現地に入ります。この人たちは2年前、3年前は英語をまったく話せなかったのですが、今はもうひとりで行って、向こうのクライアントと普通に話ができる状態になっています。ですから、経営の考え方も、やり方も、社員の意識も大きく変わってきたということです。
――日本のネット企業は、海外から輸入してきて、それを日本にアレンジすることが多かったですが、今後は日本で培ったノウハウや経験が、海外で生かせるようになるわけですね。
われわれはずっとeコマースをやってきているので、ノウハウがあるわけです。今までは「日本」と「国際」に分かれていたのを、一緒にすることによって、システムのコストも下がるし、マーケティングなどのノウハウも共通化できるので、まったくエコノミクスが変わってくる。そして、海外のサービスのレベルもどんどん上がってくる。こうした効果がかなり出てきています。
――英語公用語化に踏み切ったときは、「英語は単なる手段じゃないか、そんなのは本質的ではない」という批判もありましたが、英語化によって、ゲームの戦い方が根本から変わった、と。
もうまったく変わりましたね。もうこれなしでは考えられないですね、本当に。だから、英語化していなかったら、ViberやVikiやKoboの買収も無理だったと思います。「彼らをマネジメントできない」ということになりかねませんから。それから相手側も、そういう会社に売ろうとは思わないけど、「まあ楽天だったらいいかな」というふうに思うということですよね。
――最近、ハーバードやスタンフォードといった大学からの採用も増えていると聞きました。
そうですね。ハーバード、イェール、スタンフォード。もともと少ないので、社内で20人も30人もいかないですが、けっこう入ってきています。
――三木谷さん自らシリコンバレーに出向くことも多い?
半分ローカルみたいな感じで、シリコンバレーの起業家らと交流して、家に呼んだりバーベキューをやったりという感じですね。だからまあ、本当に名だたるIT企業の社長と、そのへんの喫茶店でお茶飲んだりすることができるようになってきました。
(撮影:尾形文繁)
※ 「日本のスタートアップ業界に欠けているもの」に続く
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