ノーベル賞受賞者が「笑い」を取りに行くワケ 山中教授「知られざるもうひとつの才能」
山中教授はユーモアの人だ。氏はコミュニケーションでユーモアが果たす役割を十分熟知している。ノーベル賞を授与されたと知ったときのエピソードがまず秀逸だ。
ノーベル賞委員会の責任者から、日本の自宅に国際電話がかかってきたとき、教授は自宅で壊れた洗濯機の修理をしていたという。洗濯機の修理を優先させるべきか、それともノーベル賞委員会への応答を優先させるべきか。二者択一を迫られて一瞬とまどう教授の姿が目に浮かぶ。
話の結論は、山中教授がノーベル賞の賞金と新しい電気洗濯機の購入費用の双方を獲得するというところに落ち着く。購入費用は山中教授のノーベル賞受賞を知った閣僚有志がお祝い金として用意した16万円。まるで落語の世界にいるようだ。
氏のユーモアはスピーチにも取り入れられている。例えば、下記のようなくだりだ。
(和訳)
ES 細胞には2つ重要な特徴があります。1つ目は急速に増殖すること、ふ……(スライドではimmortality「不死身」がimmorality「ふしだら」になっており、場内爆笑)。何てことだ、信じてください、わざとやったわけではないんです。(ふしだらではなく)不死身ですから。もう1つの大事な……ES 細胞に申し訳ない。
ES細胞に関する専門的な説明の合間にも、immortality「不死身」とimmorality「ふしだら」をかけて、聴衆を和ませている。
柔軟な頭こそ新しい発見には不可欠
スピーチの中でも、アメリカ・サンフランシスコの研究所にいたときの実験用マウスの“性転換”をめぐる研究助手とのやり取りは必読である。以下に少し引用しよう。
She was taking care of these mice. And she said something strange to me.
She said, “Shinya, your mice! Many of your mice are pregnant.”
But they are male.
(和訳)
ある日の早朝に、私と作業をしていた助手が駆け込んできました。
彼女はこれらのマウスの世話をしていました。そして変わったことを口にしたのです。
「伸弥、あなたのマウス! 妊娠しているのがたくさんいますよ」と。
でも、私のマウスはオスなのです。
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