「黒田日銀、4~6月に追加緩和も」 武藤敏郎・大和総研理事長インタビュー

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3月19日、武藤敏郎・大和総研理事長はロイターの取材に応じ、日銀は消費増税後の経済の落ち込みに対応するため、早ければ4─6月に追加緩和の拡大に踏み切るとの見通しを示した。写真は都内の日銀本社ビル。昨年7月撮影(2014年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 19日 ロイター] -武藤敏郎・大和総研理事長(元日銀副総裁)はロイターの取材に応じ、日銀は消費増税後の経済の落ち込みに対応するため、早ければ4─6月に追加緩和の拡大に踏み切るとの見通しを示した。

ただ、新発債の7割を日銀が買い占めるなか、一段の国債買入れ増額を柱とする追加緩和を行えば、市場にゆがみが生じるとも指摘。2015年10月に予定されている消費税率の8%から10%への引き上げについては、見送れば中期財政計画の達成に支障を来すとし、海外から批判される可能性があり、国債格下げリスクがあると指摘した。

また、日本経済のリスク要因として中国経済を挙げ、金融バブルが崩壊すれば成長力が大幅に低下すると懸念した。

一問一答は以下の通り。

――黒田日銀の1年間をどう評価するのか。

「大胆な金融緩和で金融市場は非常に好反応を示した。株高で個人金融資産が30兆円超増え、それなりの資産効果を消費に与えている。円安で輸出型の企業製造業の収益が増加した。企業のセンチメントを改善し賃上げの議論に結びついた。所定内給与を上げる企業も出ており、消費にプラスの影響を与えるだろう」

「実体経済への影響では、鉱工業生産などが増加しているものの、設備投資は力強く増加している状況とはなっていない」 「デフレ脱却はほぼ確実。ただ、消費者物価指数の上昇率の半分程度が円安による輸入インフレ要因。円安が加速しない限り影響は、はく落してくる。需給ギャップ縮小による健全な物価上昇に結びつくかがカギ。実体経済に力強さがないため、2年以内の2%目標達成はかなりハードルが高い」

「もっとも1%台の物価上昇になれば、2%未達が大問題だとは思わない。目標であるデフレからの脱却が実現できたと評価できればよい」

「2年後に物価目標2%が達成できない場合、達成期限の2年を延長するのが望ましい。2%は欧米各国も採用する世界標準の物価目標であるが、達成期限を2年としている中央銀行はどこにもない。今年の秋口には物価の先行きが明らかになってくるため、このような議論が始まる可能性が高い」

――金融市場、足元変調もみられる。

「ここに来て株高も一進一退。日経平均株価1万5000円程度を挟んで上下している」

「輸出型の大企業製造業の収益は増加しているが、輸出数量はあまり増えておらず、場合によっては横ばいとなっている。円安による数量効果はこれから起こるとの見方もあるが、輸出は海外経済に依存する面がある。欧州経済は底を打ったものの力強く回復してはいない。新興国の一部もスローダウンしており、米国頼みのような状況となっている」

――日銀は追加緩和に踏み切るか。

「日銀がさらなる追加緩和に着手するかどうか、現時点で予想するのは困難。4月以降消費税の駆け込みによる反動減が起こると、金融市場からは追加緩和を期待する声がかかる可能性が高い。投資家の期待も非常に大きい。早ければ4-6月、遅くても7-9月に何らかの量的緩和拡大の政策が取られる可能性はかなりあると予想している」

──追加緩和の手段として何が望ましいか。

「国債以外の資産は市場に厚みがない。量的緩和なら国債の可能性が高い」

「日銀による外債購入は介入そのもの。円安誘導のための為替操作との批判を完全に回避することできず、難しいだろう。以前から議論はあるがなかなか決断できていない」

<追加緩和で国債市場にさらなる歪み、海外投資家の対応カギ>

──追加緩和に副作用はないか。

「すでに新発債の7割を日銀が買っている状況で、国債市場はかなりゆがんだ市場になっている。仮にさらなる量的緩和の拡大が実施されると、そのゆがみに対し海外投資家がどう対応してくるかが問題だ」

「国債保有者で海外勢は1割にも満たないが、4%程度だった数年前からじわじわ増えてきている。10年物国債先物市場は、4割が海外勢となっている」

「1500兆円の個人金融資産のうち300兆円超は住宅ローン債務。ネットでは1200兆円。一方、国・地方合わせた債務は1000兆円。純個人金融資産の9割ぐらいが公的部門の債務となっており、少なくとも欧米と比較してかなり高い。一時は潤沢な個人金融資産があるから心配ないと言われてきたが、少しずつ限界に到達しつつあるのではないか」

「政府は中期財政計画に基づいて財政赤字を削減すると言っているため、今すぐに国債が暴落するリスクはない」

「状況が悪化の一途をたどれば、政府が財政赤字を制御することができるのか疑念が生じる可能性があり、長期的にみると財政赤字は相当深刻な問題」

──追加緩和の出口戦略への副作用を懸念している。

「物価の上昇は、需給ギャップの縮小が物価に跳ね返るペースを加速するような構造改革で実現される。量的緩和の拡大はそれを支えるひとつの手法だが、ある程度の状況に至ると、効果よりも副作用を心配する状況になる。仮に目標達成後に出口戦略を取る際、日銀が保有する国債の平均残存期間が7年と長期化しており、売りオペを実施するような場合、市場に色々な影響を与える」

<消費税率10%への引き上げ見送れば国際的批判・格下げ>

──政府は年内に消費税率の10%への引き上げを判断する。見送る場合の影響どうみるか。

「4月の消費増税の駆け込みと反動により、景気の基調が見えにくくなっており、さらに消費税を上げることに対して判断が慎重になる可能性があることは理解する。しかし、10%に引き上げない場合は代案を明確にする必要がある。来年の通常国会が税法の改正で消耗されるリスクもある。中期財政計画は10%への引き上げが前提となっており、目標未達なら国内のみならず海外からも批判が起こる。市場では格下げもあり得る。海外投資家が国債市場で売りにでるリスクも否定できない」

──消費税率10%引き上げのためにも、経済対策が打ち出される可能性があるのではないか。

「2014年度も財政出動を行う可能性があろう。2013年度の成長率は駆け込み需要のほか財政の下支えで大きくなっており、今後は財政が成長率にネガティブに働く可能性が高く、影響を少しでも緩和するため、財政出動を行う可能性は非常に高い」

──年初来、米国のルー財務長官がたびたび日本の円安誘導をけん制する発言を行っている。

「米国も金融緩和の結果、ドル安をもたらした。金融政策の結果起こっていることは、為替介入を行わない限り批判されない。今よりも少しでも円安になったら批判されるというのは言い過ぎでないか」

<中国経済、破局はないがバブル崩壊なら成長力大幅ダウン>

──米金融緩和縮小の動向をどうみるか。

「米連邦準備理事会(FRB)は臨機応変といいつつ、粛々と金融緩和の縮小を進めるだろう。毎回の会合で一定額縮小するのが市場にやさしい(フレンドリーな)手法だ」

──追加緩和は、消費増税の反動対策でなく、世界的な金融市場有事に温存すべきとの声があるが、どうみるか。

「中国経済についてはかなり心配している。中国はいざといったとき、政府が政治的な対応で抑え込むことが可能なため、カタストロフィー(破局)になるとは思っていない。しかし、金融バブルの崩壊となれば成長力はダウンする。全国人民代表大会は今年の成長率目標を前年同様7.5%とした。7.5%未達の可能性がかなりあると思っている」

「ウクライナやシリアなどの混乱が資源価格、特に原油価格に混乱を与える可能性がある。日本は今、原発の稼働停止で電力が大幅に石油に頼っており、仮に原油価格が上昇すると日本経済にかなり影響を与える」

*インタビューは3月18日、都内で行われた。

(インタビュアー:竹本能文)

(竹本能文 編集:田巻一彦)

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