「2つの階層」になった現代をうまく生きる方法 ネットが生んだ「自由都市」の歩き方

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尾原:もともと「アート」とは「技術」という意味ですからね。それで『アルゴルズムフェアネス』を「リベラルアーツとしてのデジタルを学ぼう」と推薦してくださった。

山口:そうそう。物理的なレイヤーには、すでに多くの知識や技術や学問があります。しかし世界が2層に分かれた今、必ずしも物理的なレイヤーに所属していなくても、架空のレイヤーで生きていける。ただし、その世界で自由になりたければ、それなりにリテラシーが必要だと思うんです。

デジタル技術を語る本はいろいろありますが、自分が自由に生きるためのインフラや手段としてそのデジタルをいかに使うかを語った本は、おそらく『ウェブ時代を行く』以来だと思います。その意味で、まさに「リベラルアーツ」だなと。

新しい職業が続々と生まれる時代へ

尾原:実際、バーチャルな知の世界では「自由都市」が生まれています。無料オンライン大学やソフトウェア開発プラットフォームのギットハブがサービスを開始して、もう10年以上が経過しました。

尾原和啓(おばら かずひろ)/1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、サイバード、オプト、グーグル、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などに従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に、『ITビジネスの原理』(NHK出版)、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)、共著に、『アフターデジタル』『ディープテック』(ともに日経BP)などがある(撮影:尾形文繁)

それによって何が起きたかというと、東南アジアの科学者が圧倒的に知的になったんです。オンライン大学を利用する日本の学生は、少数かもしれません。しかしハノイ大学では8割の学生が利用している。それまで学べなかった世界最高峰の学問に簡単にアクセスできるようになったので、貪欲に吸収しようとしているわけです。

あるいは昨今、新型コロナウィルスの感染拡大の影響が世界中に広がっていますね。でも一方、実はウィルスが特定されてから、わずか4日ほどで臨床試験に入っているんです。その間にオープンになった論文数は30本以上。まさに怒涛の勢いでした。

本来、医薬はカネのなる木なので、世界各国の研究機関や製薬会社は知識や技術を抱え込むものです。しかし人類の危機なので、途中経過でも情報をどんどん出した。それによって無意識の分業体制が整い、きわめて短時間で治療に効果がありそうな薬品が特定されたわけです。

もっとも、臨床試験の成功率は7%前後とされているので、成功するかどうかは未知数です。しかし知の「自由都市」のインパクトを、僕たちは新型コロナウィルスとの戦いによって経験するかもしれません。

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