ラジオアナウンサーが「現場取材」に出向く理由

これからのマスメディアのあり方とは?

「マスコミの使命は権力と戦う」という言葉は本来、民主主義を守るために必要な倫理観によって調査報道を行うジャーナリズムの精神を体現したものと、私は理解しています。ところが、それがいつの間にか「権力と戦う自分たちの物語」にすり替わっているように見えてなりません。

私は、この「権力と戦う」という言葉が本来の精神を失ってそれ自体が目的化し、マスコミ報道から“是々非々”という姿勢を奪い、自らを闘士に据えた陶酔の物語に引きずり込んでいるようにも見えてしまうのです。周りから見れば、もはやマスコミは特別な存在ではないのに。

一般の視聴者がSNSなどを通じて、時には専門家も交えながら活発に政策論を交わすこの時代にあって、遠い目をしながら「マスコミの使命は権力と戦うもの……なんだよね……」と具体性なく言われると、気恥ずかしさすら覚えてしまいます。

マスコミは自分たちを物語の主人公に据えず、国民、すなわち読者、視聴者の生活を豊かにするというあるべき姿へと回帰すべきと思います。根本に立ち返って、自分たちの価値観や守るべきものを再構築すべきなのではないか? そんな思いから、書いたのが初めての著書となる『「反権力」は正義ですか』でした。

もちろん、安易に政府の言い分を信じて垂れ流すようなことがあってはならないでしょう。一方で何でも反対ありきでは仕方がありません。“是々非々”を貫くためにはエビデンス(根拠・論拠)が必要です。そして、そのためには調査や取材が不可欠。

アナウンサーがわざわざ取材する理由

私は今、毎朝、生放送のニュース番組(「飯田浩司のOk! Cozy up!」(ニッポン放送・月~金:朝6~8時)のパーソナリティーを務めています。朝4時起きの毎日ですが、放送後、できるだけ現場に出向いたり、勉強会に顔を出したりするようにしています。

取材に行き、名刺交換をすると「アナウンサー」という肩書を見て大抵の人が驚きます。

「アナウンサーがわざわざ取材しているんですか?」。そう聞かれることもしばしばあります。たしかに、テレビのアナウンサーとラジオのアナウンサーで仕事の内容もずいぶん違います。また、一口にテレビのアナウンサーといっても局によってカラーもあり、東京のキー局と地方局ではだいぶ違うのでしょうが、ラジオの場合はさらに独特かもしれません。

「Ok! Cozy up!」は2時間の番組ですが、台本と呼べるものはA4で10枚もありません。あっても、段取りが書いてあるだけで、そこから先何をしゃべるのかは私や日替わりのコメンテーターといった出演者に任されています。任されるということは、自分で考え、必要があれば自分で原稿を書いてしゃべっていかなくてはいけないということです。

メディアに向けられる批判の中で「わざわざ大変なところに行って、困っている人たちを邪魔するんじゃない」というものがあります。この批判はおっしゃるとおりだと思います。しかしそれでも、やはりわれわれは現場に行く必要がある、と私は考えています。

そのことを改めて感じたのが、2019年9月9日、関東地方を直撃した台風15号による被害のレポートを伝えた際です。この台風は千葉県を中心に停電、断水、通信障害などの大きな被害をもたらしました。

このときの報道ほど、現場とスタジオの空気感の違いを突きつけられたことはありません。とくに、千葉県という都心からも近い場所で起きた災害であればこそ、むしろ現場に行く大切さを思い知らされ、さまざまな気づきをいただいたのです。

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