日本の船と港がどうにもパッとしない構造要因 海運業界は集約進み造船業界も再編待ったなし

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船の大型化の影響は港湾にも及ぶ。現在、世界最大級のコンテナ船を接岸させるために必要な水深は18メートル。世界各国の主要港湾が大型船対応に向け埠頭の整備に動く中、日本で18メートルの水深を持つのは横浜港のみだ。

コンテナの規格統一は、港湾のあり方も変えた。シンガポール港のように積み替え港としての機能を強化し、コンテナ取り扱いで稼ぐ港も登場。世界の港湾ランキングを見ると、2002年には取扱貨物量の上位10港に千葉港と名古屋港の2港が入っていたが、2017年には上位10港に日本勢はゼロ。名古屋港の21位が最高で、日本は完全に出遅れた。

日本の港湾が現在注力しているのはクルーズ船の寄港だ。博多港の2018年におけるクルーズ船寄港回数は実に279回。中国発ツアーが多いせいか、地理的に近い西日本の都市への寄港が目立つ。東日本の自治体はクルーズ船誘致の取り組みを進めるが、寄港があっても地元経済が潤うとは限らない。寄港地で夕食を取らず宿泊もしないツアーが多いのだ。「クルーズ船の団体客は必ずしも富裕層ではない。100円ショップでしか買い物をしない客もいる」と、九州の旅行関係者がぼやく。

新型肺炎ショックも襲いかかる

日本の港湾には、経済活動とは違う新たな脅威も襲いかかる。2017年6月に初めて、強い毒性を持つ特定外来生物のヒアリが、神戸港で下ろされ尼崎市内に運ばれたコンテナの中で発見された。昨年秋には、東京港で有翅女王ヒアリが20個体以上見つかった。「女王アリが飛び立ち、ほかの場所に広がった可能性が高い」(環境省)。

そして、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では乗客が新型コロナウイルスに集団感染するという事態が発生。密室状態で長時間過ごす旅が思わぬリスクを伴うことが浮き彫りになった。

これまであまり注目を集めることがなかった日本の船と港だが、多くの課題が山積している。

『週刊東洋経済』2月22日号(2月17日発売)の特集は、「船・港 海の経済学」です。
大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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