大統領の後ろの席で聞いていたナンシー・ペロシ下院議長は、何度も”So untrue”(そうじゃない)とつぶやいていたようだが、最後はとうとう我慢しきれなくなったか、演説終了とともに手元にあった一般教書演説の原稿をビリビリと4回も引き裂いた。
はからずもこの場面が、この日の「トランプ劇場」のハイライトシーンとなった。おそらくこのあと何度も、「下院議長が大統領の演説原稿を破ったシーン」が使われることだろう。ペロシさんは下院議員の大ベテランで、酸いも甘いもかみ分けた「アメリカの二階幹事長」だ。しかる今回ははからずも、「トランプ氏と戦う者は、自分も同じレベルに落ちてしまう」の法則を避けられなかったようだ。
とはいえ、その心中は察するに余りある。何しろ下院議長として、よりによって2月4日に大統領を議会に招待したのはペロシさんなのだから。そしてもちろん、トランプ大統領を弾劾訴追に導いたのも。
その翌日は、大統領弾劾裁判の評決の日であった。と言っても、1月31日にウクライナ疑惑の証人として、ジョン・ボルトン前国家安全保障担当補佐官の招致を否決した時点で勝負はついていた。
この日は100人の上院議員が1人ずつ「有罪」「無罪」を告げるだけで、その結果は事前の予想通りであった。53人の共和党議員のうち、造反して「有罪」を宣言したのはミット・ロムニー上院議員だけ。2012年の共和党大統領候補として、いまや絶滅危惧種となっている共和党穏健派の矜持を示してみせた。しかるに後は全員が「無罪」を宣言し、憲法で定められた「3分の2の同意」というハードルには遠く及ばなかった。
「共和党の一致団結ぶり」が浮かび上がった
3日連続のイベントを通して浮かび上がったのは、共和党が善くも悪くも一致団結していることである。4年前の大統領選挙の際には、トランプ氏を大統領候補とすることに多くの抵抗があったものだ。それが今では、共和党支持者の9割以上がトランプ氏を支持している。こうなると「毒食わば皿まで」じゃないが、個々の議員はとても逆らえない。そして今回の弾劾裁判では、トランプ氏が共和党本流派にすり寄っている。一般教書演説の中では、ミッチ・マコーネル上院院内総務を露骨にヨイショする場面もあった。
逆に民主党は、党内に深い亀裂を抱えている。民主党のエスタブリッシュメントは、4年前はかなり強引にヒラリー・クリントン候補を勝たせようとした。その結果に対する反省から、2020年はなるべく放任主義で選挙を運営している。その結果、20人以上の大統領候補が立ち、よく言えば活力ある、悪く言えばまとまりのない状態になっている。
しかるにその結果、選挙資金や選挙スタッフといった限りある資源が分散し、しかも中道派と左派の対立は深まっている。今回のアイオワ州では、エスタブリッシュメントが勝たせたいと念願しているジョー・バイデン元副大統領が4位と出遅れた。選挙資金の集まり具合も芳しくないだけに、今後の戦いに暗雲が立ち込めている。
11月3日の大統領選挙投票日までは、まだまだ先が長い。しかるに現時点では、民主党が次々とみずから墓穴を掘っている感が否めない。どうやってここから態勢を立て直し、「勝てる候補者」の下に団結できるのか。ひとつだけ確実なのは、トランプさんがご機嫌な週末を迎えているだろうということである(本編はここで終了です。次ページからは競馬好きの筆者が週末のレースを予想します。あらかじめご了承ください)。
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