日本でiPhoneの売り上げが「不振」に陥ったワケ 新型コロナウイルスがアップルに与える影響

拡大
縮小

国の規制がビジネスに影響を与えるのは、日本だけの話ではない。

例えば欧州では、電子機器のゴミを減らすため、スマートフォンの充電ケーブルをUSB-Cに統一する法案を可決した。アップルは2012年からLightningポートを採用してきたが、方針転換の可能性も出てきた。しかも、その理由は環境問題と言うことで、アップルも方針転換しやすいかもしれない。

そのアップルは、現在世界的に拡大が続いている新型コロナウイルスは、業績の押し下げ要因になるとの見方をしている。

新型コロナウイルスという「不確定要因」

2020年第1四半期決算の電話会議で、新型コロナウイルスに関する質問が飛んだ。これに対して、次の期の売上高のガイダンスが売上高630億〜670億ドルと幅がある点は、「新型コロナウイルスへの懸念と不確実性」を織り込んでいるためとしている。

中国市場はアップルにとって、2つの意味合いがある。アメリカに次ぐ第2の消費国である点、そして多くの製品の組み立てやサプライヤーが集中する国である点だ。その双方でアップルのビジネスを毀損する可能性が高い。

アップルは中国内の直営店と事業所を2月9日まで閉鎖することを決めた。中国国内ではそのほかの店舗も閉まっていることを考えると、その間アップルは中国での売り上げを失うことになる。1週間店舗が閉まると、アップルの売り上げは8億5000万ドル減少すると試算できる。2月10日に開店できるかは不透明だが、閉鎖が解かれても、消費が回復するとは考えにくい。

中国は春節の休暇を1週間延長しており、1月末の決算発表の際には、アップルに関連する工場は2月10日から工場が稼働すると述べていた。しかし感染と死者数は拡大し続けており、むしろ状況は悪化しており、そのとおりになるかは微妙だ。

そこで問題となるのが、製造が需要に追いついていない製品の売り上げへの影響だ。アップルは現在、Apple Watch Series 3とAirPods Proで品薄状態が続いている。いずれも急成長を遂げているウェアラブル部門に属する製品で、iPhone不振をカバーしてきた。

Apple Watch Series 3については2020年第2四半期に品薄状態が解消するとしてきたが、工場の稼働が遅れれば難しくなる。また3月には新製品も予定されているとみられ、とくに廉価版iPhoneのような戦略商品が出遅れると、2020年の業績全体に影響を及ぼしかねない。

2020年のアップルは、各国の規制や新型コロナウイルスといった外的要因との戦いが強いられることになった。事態の打開に向けて、グローバル企業がどんな貢献をするのかについても、より開かれたアイデアで検討すべきだろう。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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