日米安保60年で祖父の轍を踏む安倍首相の現在 当時の岸信介氏は米国産農産品を買っていた

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岸信介のあとを継いだ池田勇人内閣が「所得倍増計画」を打ち出し、成功したのも、こうした背景があったからだ。

だが、この調印が行われた1960年をピークに80%にまで回復した戦後日本の食料自給率は一気に低下していく。

考えてみれば当たり前のことなのだが、工業を特化したことで農業生産人口は工業生産に流れ、パン食が典型のように日本に浸透する食の洋食化は、アメリカから食料を買い付けることで賄えるようになる。

この日米循環型の貿易構造が、やがて日米貿易摩擦を生み出す。対日貿易赤字を抱えたアメリカは、1980年代に入ると日本に厳しく市場の開放を迫るようになる。日本製の自動車を目の敵にして、アメリカ産農産品をもっと買えと迫った。結果的に日本は1991年、それまで国内農家の保護を楯に規制していた牛肉の輸入自由化に踏み切った。

突如、暴露されたトウモロコシ問題

そして今回の日米貿易協定は、トランプ大統領が2016年の選挙戦当時から、「もし日本がアメリカの牛肉に38%の関税をかけるのであれば、われわれも日本車に同率の関税を請求つもりだ」と演説でこだわってきたように、日本がアメリカ産牛肉にかけていた38.5%の関税率を、今年1月1日の発効直後から26.6%までに引き下げさせた。最終的には2033年までに9%にまで下がることになる。

しかも、昨年8月にフランスのビアリッツで開かれたG7にあわせて行われた日米首脳会談で、両国首脳が同協定の合意に至ったことを発表した際には、トランプ大統領が「日本がトウモロコシを買ってくれる」と暴露。

日米貿易交渉の対象品目ではないにもかかわらず、米中貿易戦争で中国に向かうはずが、売れ残って余剰となったトウモロコシ約250万トン余りを日本が追加購入させられる、と大きく報じられた。

いわばアメリカの事情が働いたわけだが、それでトランプ大統領にしてみれば、国内生産者に成果を見せつけることで、今年の大統領選挙を有利に戦える。そうやって大統領のご機嫌も一緒に買っている。

いずれにせよ、二国間協定は、言ってみれば、おじいさんが結んだ負の遺産を孫が繕っているようなものだが、実は60年前のアメリカには、安全保障条約を利用してでも、どうしても日米の貿易構造を作り出したい事情があった。

第2次世界大戦中から、アメリカは国家を挙げて食糧の増産体制に入る。当時のルーズベルト大統領のファーストレディーだったエレノア夫人が、ホワイトハウスの敷地内に農園を造った逸話は有名で、それだけ国威発揚を目指したものだった。

しかし、それは日本のように海上輸送路と供給源を絶たれ、本土を攻撃されて極度の食料不足に陥ることを防ぐ、国民のための食糧備蓄対策でなかった。そもそも戦場は本土になく、もっぱら戦地として壊滅的な被害を受けていたのは欧州だった。

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