小林武史さんが本気で農場経営に乗り出すワケ 「ap bank」スタートから16年、変わらぬ思い
――農場のスタッフにも何人か取材しましたが、どの方も自分が選んだ働き方と生き方に納得して楽しんでいる様子が伺えました。それはやはり小林さんのマネジメントによるところも大きいのではないかと。
木更津の農場にいるメンバーは、世の中がおかしな方向に流れていることを自分で察知していて、僕があえて話さなくてもやるべきことをわかって来ている人たちばかりです。何か物事を決めるときって、ピンとくるような第六感を僕は大事にしているんですけど、そこも全員わかってくれている。
ただ、メンバー全員に向けた一斉メールで、僕がそのとき伝えたいことを送ることはよくあります。先日も、長文メールを書いて送りました。
メールの内容は簡単に言うと、生存競争の中でどう生きていくべきかという話です。僕らは生き物ですから、誰でも生存競争に巻き込まれます。そうすると生き抜くために競争相手のことを知りたくなる。だけども、相手を深掘りするより大事なことは、自分との闘いや自分自身の成長なんですよね。
また、競争意識が高くなると他人と自分を比較しがちだけど、そのことでいちいち迷わないように自分の軸を持つこと。その軸がブレることなく、正しいと思うことを1人でも多くの人に伝えていけば必ず結果は出てくる、といったメッセージです。当たり前といえば当たり前ですけど、こういうことはオウムのように繰り返し現場スタッフに言い続けています。
人間も自然の一部だと思って希望を失わない
――木更津市をはじめ、住友林業、環境省も連携して、さまざまな分野のエキスパートが参画しています。
最初に牧場跡地を買う時は、木更津市役所に何度も通ってコツコツと話を進めてきたんです。少しずつ関心を持ってもらえるようになって、上の人とも話せるようになった。今ではもう木更津市長の渡辺芳邦さんは、僕らの一番の理解者として応援してくれています。
住友林業さんは、廃材を利用したり環境に配慮した木造建築を重視している点が、僕らの考え方と重なっていました。環境省も「地域循環共生圏」を提唱して、再生可能エネルギー・食・観光など地域資源の活用を推進しているので、僕らがやろうとしていることと近い。そういった接点から、「応援します」とおっしゃってくださった方々と一緒にやらせていただいています。
――「KURKKU FIELDS」は始まったばかりですが、今後ここをどのように成長させていきたいですか。
自然って本当に思いどおりにならないので、そのダイナミズムの中に僕らも身を置いているつもりです。そのうえで慎重に、かつ大胆に事業を展開していきたい。それと農業をやっている以上は、食べてもらわなければ完結しないので、そこに至るまでのアイデアももっと膨らませていきたい。そういう根本的な部分から成長していくことが大事ですよね。
そういう意味で、参考にさせてもらっているのは、和歌山で「ヴィラ・アイーダ」というレストランをやっているシェフの小林寛司くんです。彼が作る料理は、畑のどんな野菜も冷蔵庫を開ける感覚で使いこなせるほど先進的なんです。
言ってみれば、食材との付き合い方が鑑みたいなシェフで、多種多様な食材を料理ひとつで新しい価値観に変える天才なんですね。僕らがやっていることは、まだそこまでの領域に達していないので、彼のように自然のダイナミズムを面白がって、それを表現できるようになれたら強いだろうなと思っています。
あとはやっぱり、避けて通れないのは、自然が猛威をふるうことが年々増えていることです。
「KURKKU FIELDS」では大きな太陽光発電を導入していますが、やはりどうしても不安は尽きない。それでも、僕らがやっていることは間違っていないということをつねに確認しながらやっていくしかありません。ネガティブとポジティブは表裏一体で、その2つは必ずつながっている。だからこそ化学反応も起こるわけだから、人間も自然の一部だと思って希望を失わないことが大切だと思っています。
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